題詠100首選歌集(その47)

 お盆休みで、たくさんの歌が生まれたのだろうか。「在庫25首以上の題が10題」を勝手な単位にした選歌集が、このところでは珍しく2日続いた。今日も暑い。


       選歌集・その47      


030:湯気(152〜177)
(市川周)フランス語で「湯気とメガネ」という意味のカフェがつぶれてコンビニになる
(わたつみいさな。) 嘘なんて日常茶飯事バスタブの湯気にやさしく抱きしめられる
(内田かおり) 立ち上る湯気のうつつの優しみを飲み込みており午前零時に
(井関広志) あてどない大きさゆえに海の夜はコーヒーカップの湯気を見ており
(末松さくや) 酔うことはまだおそろしい湯気を吐く枝豆の口見てばかりいる
047.ひまわり(103〜129)
(いろは)ひまわりの伸びてゆく道通いつつ変わりゆくこと憧れている
(ジテンふみお) ひまわりのせいにするからひまわりは黄色いままで気をつけしてる
(萱野芙蓉)愛されるための笑顔をふり捨てて夜のひまはり畑を過ぎる
(小籠良夜) 死神は鎌研ぎてをり 丈高き頸は刈らるるひまわりの夏
(暮夜 宴) 水曜のひまわり畑から見てた ありとあらゆる真夏の色を
(わたつみいさな。) (吹っ切るということ)最終バーゲンでひまわり色のサンダルを買う
(ゆふ) ひまはりのまはりははたけまはりみちぐるりまはればひまはりのまへ
048:凧(103〜127)
(大辻隆弘)あざわらふ真夏の凧よ、空を斬るためにかすかに糸はふるへて
(青野ことり)糸の切れた凧なら煩うこともなく風にまかせていられるものを
(萱野芙蓉) 消えてゆく凧を見てゐた ねえさんとわたしは地面につながれたまま
058:帽(77〜101)
(佐原みつる)麦藁の帽子のつばに触れながらひとつ秘密があるのだと言う
(健太朗) シルク地の 黒は帽子に 映されて 通り過ぎゆく ウィンドウの風
(ちりピ)ため息のかすかなよどみに飛んでゆく綿帽子の背を見送る夕べ...
(一夜)ギラギラと照りつく陽射しうとましく  顔まで覆うツバ広帽子
(美木) 風に飛ぶ麦わら帽を拾いあげ恋が始まらないこともある
(石の狼)帽子屋の床にソファとテーブルで 夏の空気も静かに涼し
(志保) 泣いたのは 幼い時の 私です 夏の記憶は 麦わら帽子
(大宮アオイ) 屋久島の海辺は雨さえ輝いて麦藁帽子を置き去りにする
(青野ことり) 告げられた戸惑いが目ににじむからすこし目深にかぶった帽子
(ゆふ)登校の黄帽子軍団やりすごす雨のあがれる小径の端に
059:ごはん(76〜101)
(紫月雲) 陽だまりの少し遅めの朝ごはん卓上ケトルはぷるぷる震えて
(石の狼)君に出す朝ごはんとてシリアルとドライフルーツ混ぜる幸せ
(五十嵐きよみ)ひからびたごはん粒にも手放しで笑えたほんの半月前は
060:郎(76〜104)
(ちりピ)とりあえず太郎と呼んでるさぼてんに花が咲いても私はひとり...
(橘 みちよ) 午後の日差し女郎蜘蛛の巣を透りくる女の日々もあとわずかにて
(石の狼) ゆうらりと阿子にもあげたし雲渡る竜の子太郎のでんでん太鼓
(暮夜 宴)さみしさに灯をともしたら赤々と八郎潟に満ちる夕焼け
(青野ことり) いちろうという名であればろうの字は郎より朗だ 月の夜だから
(萱野芙蓉) 太郎冠者老いずいく世を笑ひきぬ今宵しづかに酌み交はさぬか
061:@ (77〜103)
(一夜) パソコンに慣れ親しんだ年月は @マークに過ぎし流星
(しおり)@(あっと)まで 打っては消してためらいが 君へのメール邪魔をしている
(橘みちよ) せつなさの気持ち伝へむアドレスはとどかない@あの夏帽子
(本田鈴雨)@(アンフォラ)と読めば想ひはいにしへの素焼きの壷に葡萄酒満たす
062:浅(77〜103)
(橘 みちよ) こころ病み浅き眠りをねむるとき意識はかへる置き去りし過去へ
(寺田ゆたか)山腹に雲をまとひて浅間嶺は餅菓子のごとつぶれてをりぬ
(しおり) 浅漬けの きゅうりほうばる音だけが 侘しく響く独りの食卓
(萱野芙蓉) 切り捨てた別のわたしがあの春の浅みで泣いてゐるかもしれず
(史之春風)八月はこどもの遊ぶ遠浅の海の彼方にかげろうが見ゆ
(佐原みつる)しょうがないことはあるって人は言う浅蜊に砂を吐かせる日暮れ
069:呼吸(54〜80)
(FOXY) 樹々(きぎ)はみな根張りのままに雪消(ゆきげ)して春陽(はるび)浴びつつ呼吸(いき)吐く如し
(ほたる) ブリリアントブルーのキャミの肩越しに呼吸ひとつを乗せて口笛
(水都 歩)薄暗き病室母の胸元に顔近付けて呼吸確かむ
088:錯(27〜51)
(たちつぼすみれ) 脚長に見ゆる錯視のここちよさ鏡ななめに立てかけており
ruru)風を見た 君がくすりと笑ってた うだる暑さの真昼の錯覚
(野良ゆうき)錯覚の恩寵とでもいうような昼間の夢に身を漂わす
(村本希理子)ひとときの錯視ののちの縮みゆく世界に弛む筋肉がある
(イツキ)あのひとに捧げるために繰り返す試行錯誤の悲しみと嘘
(原田 町)戦争はつづいているよな錯覚を黒衣の群れが鳥居をくぐる