題詠100首選歌集(その50)

 <ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して4年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。

             

       選歌集・その50



016:%(217〜241)
(久野はすみ)眠れないあなたのために縫い上げる茉莉花100%のふとん
017:頭(208〜233)
(原 梓) わがしたしき頭痛 回送バスのごとわれに乗り入れ行き先失くす
佐藤紀子) 小節の頭の音が揃はない 少し疲れたシニアコーラス
(新井恭子) 頭から離れることのない声を集めてタオルケットを作る
(久野はすみ) 籐椅子を桃源郷の舟として糖衣のような頭韻をふむ
(瑞紀)卒塔婆(そとうば)のわきに生えたる鶏頭を抜かずにきたと母は言いたり
(寒竹茄子夫)頭より赤錆びてゆく釘ひとつ自転車も馬も夢に濡れゐて
022:低(188〜212)
(佐藤紀子) 低音にトランペットを支へつつベースが父のごとくに歌う
(太田ハマル) アスファルトが溶けゆく町の風景に低いところで鳴く蝉がいる...
(井関広志) 低く重く雲たれ風をまつ夜に空を拡ぐる打上げ花火
(末松さくや)この夏は音楽みたいにすぎてゆきあなたは初めて触れた低音
今泉洋子) 往還に枝撒き散らし鵲の巣は去年(こぞ)よりも低く仕上がる
(里坂季夜) はじまりの季節が終わる夕風に低くゆらめく宵の明星
(冬鳥) 伸ばしても届かぬ腕と知っていた写真の中の低い空の日
(吹原あやめ)月光に素足をさらす真夜中に風のオルガン低く鳴らして
(瑞紀)ダイナモが低くうなっている町のわたしのなかにまだ歌はある
023:用紙(183〜207)
(永時) 八月の終わりの画用紙の広さみたいな日々を繰り返してる
(太田ハマル)昼休みコピー用紙を補充する 重なるもののずれる感触...
(原 梓)原稿用紙の枠をつたって此方から彼方へ渡る午後の陰影
(末松さくや)高い場所にいる人の手で配られる訂正だらけの問題用紙
(里坂季夜) あの子には色画用紙が配られてぼくらと違う風景を描く
(やや) 画用紙に線をひく瞬間(とき)耳鳴りと満月の夜の蒼い静寂
(冬鳥) いろいろの絵の具散らして子は外へ画用紙に落ちる夕まぐれ、朱(あか)
024:岸(180〜204)
(近藤かすみ)宵闇の向かう岸なるビストロは黄金(きん)のひかりを撒きつつ浮かぶ
佐藤紀子)幼な日の我を知る人誰もなき此岸に青く朝顔ひらく
今泉洋子) 癌病める友を見舞ひて帰る道彼岸花の朱に雨ふりそそぐ
(冬鳥)我もまた流れゆくもの 川岸にたゆたうもののひかりあふれて
(あいっち)対岸に風を置くきみおそなつの晴れの朝の被写体として
041:存在(129〜153)
(近藤かすみ) 言葉にて存在確認するやうな愛もあるらむ空蝉のこゑ
(emi) この夜にわたくしは在り咳をする君が許さぬ存在として
051:熊(102〜127)
(わたつみいさな。) 優しさを履き違えないのも勇気。森の熊さんここまでおいで
(幸くみこ) お土産の熊よけ鈴がトイレットペーパー出すたびチリンと揺れる
(ワンコ山田)日焼けした麦わら帽子熊毛色トンボと風と夕日と遊ぶ
065:眩(78〜104)
(暮夜 宴) まどろみのなかで儚いゆめをみて眩しさに泣く8月まひる
(ゆふ) 赫すぎて黝(くろ)ずむ落暉に立ち眩む十九の夏は藻屑と消えぬ
(紫月雲)初恋の眩暈に似たる熱風が駆け抜けてゆく夏の図書館
(五十嵐きよみ) 立ち眩みこらえるような顔をして悩みをひとつ打ち明けにくる
(ジテンふみお) 滅びゆく星は眩しく溶接の遮光ガラスにある小宇宙
(やすまる)眩(まばゆ)さは瞬(またた)く間(あいだ) なだらかな晩夏の夜をころがっている
072:緑(53〜77)
(村本希理子) テーブルにこぼす緑のまめ甘し一人の朝はひとりのたくらみ
(岩井聡)万緑の島は拳と思いつつ小指でひらく君の灯台
(はらっぱちひろ)朝焼けの電車でおいで眠い目に見たこともない緑をあげる
(沼尻つた子)  マスカットはじめて食みたる一歳の葡萄色とは今日から緑
092:生い立ち(27〜51)
(新井蜜) 生い立ちを語るあなたの肌白く嘘かも知れぬと思いつつ聞く
(拓哉人形)ドーナツの甘さを指で持て余し今日三度目の生い立ちを聞く
(絢森)まぼろしの妹たちが黙々と青い小人の生い立ち描く
(イツキ) その愛の生い立ちはもう語られず弔いの花は白く揺らめく
(原田 町)生い立ちをあれこれ述べることよりもわが老い先やコスモスの花