題詠100首選歌集(その51)&選歌雑感

 締め切りまであと2月。そろそろ追い込みに掛かっておられる方も多いかと思う。皆様のペースアップにつれて、私の選歌もそろそろ忙しくなりそうだ。冒頭に選歌についての雑感を書こうと思っていたのだが、かなり長くなったので、この選歌集の最後に付記することにした。


           選歌集・その51             


031:忍(155〜180)
(やすまる)はじめての不忍池(しのばずのいけ)のボートにて前髪の癖が気になっている
(翔子)  朗らかに話せる恋の思い出は忍ぶことなどまだ知らない日
(A.I) 影よりも濃く研ぎあげた眦に忍ばせている白金の針
(紺乃卓海) 忍び寄る月へ伸ばしたあしくびにしみこんでいる窓枠の影
066:ひとりごと(79〜104)
(帯一鐘信)  雨あがり坂のうえから夕焼けがぼくのかわりにいう ひとりごと
(ゆふ)われひとりごとりごとごとゆれてゐる 古里行きの最終列車
(五十嵐きよみ) ひとりごとだけで成り立つ脚本のヒロインめいた指の組み方
(紫月雲) ひとりごとかき集めればできあがる私のB面深夜に鳴らす
(しおり) ぶつぶつと 花に向かってひとりごと 呟いている 母の優しさ
067:葱(78〜102)
(水都 歩)おまけだと刻んだ葱をたっぷりと載せてラーメン運ばれてくる
(わたつみいさな。) どうにでもなることばかり気になって葱を忘れたみそ汁を飲む
(帯一鐘信)日焼けした祖母が引き抜く真っ白な葱がおかれた玄関の隅
(暮夜 宴) 葱ぼうず引き抜くときの泥くさき眩暈のなかに故郷はある
(天鈿女聖) 玉葱を握りつぶした悔しさをもって自転車こぎだしていく
(五十嵐きよみ)少しでもそれで気楽になれるなら玉葱のせいにしておけばいい
(佐原みつる)ただ待っているのも落ち着かないからか葱を小口に刻み始める
074:銀行(52〜77)
(村本希理子) 銀行の硬いソファーに腰掛けてわたしはたぶん船を待つてる
(はらっぱちひろ) 「銀行に行ってきまぁす」意図的にゆるめた語尾をオフィスに残す
075:量(51〜76)
(村本希理子) 青い花尻に持つ子が載せられて天秤量りの針ゆれ止まず
(わたつみいさな。) 石鹸を量り売りにて買う昨日ついた嘘ほどちょっぴりと買う
076:ジャンプ(52〜76)
(イツキ)「青春の参考書です」と渡された少年ジャンプを読むひまつぶし
(萩 はるか)ジャンプする馬の波打つ腹の筋ああ生きるとは逞しいこと
(はづき生)けんけんぱジャンプをしている子供たち見た路地裏は昨日の匂い
(kei)飛び魚の最後のジャンプまなぶたの奥深くまで青の残像
(ジテンふみお) うなじから腰にかけてのジャンプ台みたいなライン寝返りをうつ
(ほたる)よそ行きのドレスを纏う片足でジャンプしてみる裸足のままで
093:周(26〜51)
(じゃみぃ)憂鬱を短い周期繰り返し夢を捨てたり拾ったりする
(たちつぼすみれ) 周期表忘れたけれど始まりは何やら海に関する言葉
094:沈黙(26〜50)
(拓哉人形)沈黙で語るあなたの柔き背に許されながら愛されている
(FOXY) <沈黙>と彫られしのみの墓標にて胡麻の花咲き風吹くばかり
(野良ゆうき) 沈黙の時間(とき)は深まることもなくただ過ぎてゆく対策会議
095:しっぽ(26〜51)
(新井蜜) コリコリと歯応えのある鯛焼きのしっぽを食べるひとりの部屋で
(野良ゆうき) もし僕にしっぽがあれば思い切り振っているかもしれないけれど……
(イツキ) いい加減しっぽを出せと女狐に囁きたくて仕掛ける悪意
(村本希理子) 誰からも隠してゐたい手のひらに愛でるしつぽを持たないマウス
(寺田ゆたか) 雲去りて月にしっぽの生える夜は兎と狸酒を酌みゐる
096:複(26〜50)
(酒井景二郎)女子たちの男あさりの顛末を聞くふりをして黙る複寫機
(村本希理子)複線の軌道へ入りゆくオレンジのディーゼル列車に秋が来てゐる


<選歌雑感>
 
 まず、選歌の手順である。まだ選歌していない作品が25首以上貯まった題につき、主催者のサイトから、対象となる全作品を私のドキュメントにコピーする。次いで、「これは良いな」と思ったものを残し、それ以外は削除する。いわば第一次予選である。第一次予選は、意識的に、かなり甘い基準で選歌している。また、作品の相対的な比較はほとんどせず、いわば絶対評価で選歌している。題が10題貯まったら、ブログに移し、もう一度精査して選歌集として掲載する。
 私にとって一番好ましいケースは、第一次予選通過作品が、25首のうち2〜5首くらいあり、その他の作品とはかなりの格差があるケースである。しかし、このような楽なケースは比較的少ない。どうかすると、第一次予選通過作品が25首中10首くらいに及び、選択に迷うケースもあるが、無理して絞る必要もないので、横並びを見て「少し点数が低いかな」と思ったものを1〜2首外すくらいで、多いままで済ませる場合も多い。
 一番迷うのは、好きな作品がほとんどない場合である。「25首の中から少なくとも1首は選ぶ」という方針にしているのだが、その1首が簡単には見付からない場合がある。そのようなときには、少し物差しを甘くして、それほど気に入ったわけでもない作品を選ばざるを得ない。そのような場合に限って、同じようなレベルの作品が多く、本来私が意図している合格ラインを少し下回るような作品を、何首か選ばざるを得ないケースも出て来る。
 第一次予選は多少甘い物差しで行っているのだが、そのときに「ギリギリ合格」と思って拾った作品を、最終段階で同じ題の作品と横並びで見ると、「これはなかなか良い」という印象に格上げされる場合も結構多い。私の刹那的な判断基準が変わったということもあるのかも知れないし、その作品に馴染みが出て来た場合もあるのだろう。また、「石」の中に混じっていると「石」にしか見えないものが、「玉」の中に入れると俄然光を放って「玉」に見えて来るというケースもありそうである。
 何かの事情で、編集途中でブログを閉じざるを得ない場合もある。ブログには「保留」という機能はないようで(これは私が知らないだけなのかも知れないが・・・)そんな場合には、一応載せて登録した上で、後で修正する場合も出て来る。普通の文章ならそれでも差し支えないだろうが、選歌の場合、いったん登録して載せた作品を後で削るということになってしまう。「選歌集に載った」と思っていた方が、後になって見直すと実は載っていなかったというケースも出て来るわけで、そのような方には、まことに申し訳ない。そんなときには、ブログのタイトルに「工事中・立入禁止」といった副題を付けて誤魔化す場合もある。(考えてみれば、これは私の手抜き根性から来た要領の悪さで、私のドキュメントの中で完成させた選歌集を、ブログに転載すれば済む話だ。わずかばかりの省力化の積りで、かえって面倒な事態(?)を招いているような気もするので、次号からはそのようにやり方を変えようかと思っている。)


 以上、勝手な雑感をいろいろ書き連ねてしまったが、これはあくまでも私の勝手な選歌であり、何の権威もないものだ。どうかあまりお気になさらずに、お怒りにならずに、私の道楽にお付き合い頂ければ幸甚である。また、この記事で「合格」とか「良い」とか「レベル」とか、勝手な格付けをした不用意な表現を使っているが、これはあくまでも私の勝手気まま、かつ刹那的な判断によるものなので、その点もお許し頂きたい。11月のはじめには、例年通り、「百人一首」を作って御披露したいと思っている。