題詠100首選歌集(その57)

 今日は彼岸の中日。久々に晴れて気温も高いようだが、それでもどこか肌触りが夏とは違う。「暑さ寒さも彼岸まで」とはうまく言ったものだ。 



       選歌集・その57          


020:鳩(210〜234)
(あいっち)鳩を野に放すようにはいかなくて反古の下書き着々と増す
(お気楽堂)反故にした海水浴の約束と鳩サブレーを抱えて帰る
(久瑠木ぱる) 伝書鳩はあの鳩かしら?王子から手紙が来ない姫の休日
(春畑 茜) 皇帝の描きし鳩のしづけさよ桃の花咲くあかるさのなか
八百長鑑定団) 見守(まも)るがに白鳩の群れ飛び交えり春の靖国奉納相撲  
021:サッカー(213〜237)
(冬鳥) サッカーをし終えた後の少年が乗る夜のバス 闇深みゆく
(あいっち)サッカーをする児のいない公園の日かげを選りてきみとゆきたり
(K.Aiko)不意に今 ほしくなる夫(ひと) 抱きあえば サッカー中継だけなり響く
030:湯気(178〜202)
今泉洋子) 湯気のぼる風炉に一杓みず注(さ)せば小間の茶室にしづもる刹那
(寒竹茄子夫)ストーブの上の薬缶が湯気吐けば石油の燃ゆる火中(ほなか)を凝視(みつ)む
(里坂季夜) ぼんやりとまがりつむじは湯気の中あこがれひとつ手放す覚悟
(音波)しあわせが湯気の形によみがえり 茶碗の中に消える夕映え
(夏椿) ほそき脚たたみて鳥の眠りをり水さへ湯気となる冬の地に
(瑞紀)カフェラテの湯気鼻先にあてている君が別れを切り出すまでは
047:ひまわり(130〜157)
(ワンコ山田)夏じゅうの暑さに焼かれうなだれたひまわり一人っ子のふりをして
(我妻俊樹)夜遊びの写真に屋根を越すほどのひまわり ゆびをならせば静か
(月原真幸)生まれつき太陽に似ているなんて 二階から見る夏のひまわり
(emi)キッチンに挿したひまわり存在をはずかしくする苛立ちの午後
048:凧(128〜152) 
(近藤かすみ) いつまでも凧揚げつづける父さんの背中に冬の夕陽があたる
(惠無) 凧糸が家庭用品売り場にてかしこまってる百円均一
(夏椿) 冬ざれの空と綱引きするやうに凧の糸引く父の手に添ふ
(月原真幸)凧あげをしたことがない子のために赤青白の風船を買う
(翔子) 棘も抜け同床異夢の二人旅ゆるゆるあがる連子凧斜め
060:郎(105〜130)
ひぐらしひなつ) 女郎花泡立つ午後を笑わなくなった姉から離れて歩く
(桑原憂太郎)ブチきれた太郎を教師が抱き抱へやがて眠らす午後の雪の日
(ジテンふみお) 金太郎飴のモデルになりそうな笑顔だけしか憶えていない
(ワンコ山田)河太郎(がたろう)の立てた水音吸い込んで深く静けさ積もらせる淵
(駒沢直)朔太郎 春の夢みき 青白き水月(くらげ)となりて揺れる温水(ぬくみず)  
(夏椿) 惜しみなく愛を奪ひて碑となりし武郎の上に降る蝉しぐれ
062:浅(104〜128)
(桑原憂太郎)浅はかな譬へ持ち出し担任が説諭続けり午後の教室
(ワンコ山田) くるぶしをくすぐる揺らぎ浅瀬からマリアナ海溝あたりまで 波
(井関広志)泥亀は色の浅きにあこがれて月のウサギを首伸ばし待つ
(内田かおり) 遠浅の湖の底まろまろと並ぶ小石をゆっくりと踏む
(大辻隆弘) 浅き瀬をわたらひ過ぐる少女らの風にとぎるる遠きこゑごゑ
075:量(77〜101)
(石の狼)『数字の本』買って貰った幼き夜 宙(そら)が教えた無量大数
(五十嵐きよみ) 傍からは推し量れないそれぞれの恋人たちのいさかう理由
(井関広志)鳴らす歯の音の吸わるる深き夜を量れずに読む『地下室の手記
(ワンコ山田) 矢車草抱え通学した朝の器量ほめられ今生きている
078:合図(76〜100)
(橘 みちよ) なんの合図も無くわが体内を占めをりし腫瘍とともにこの夏を生く
(一夜) 打ち寄せる波が全てを持ってゆき 黙す貝なるふたりの合図
086:恵(54〜78)
(椎名時慈) 突然の豪雨みたいな幸運に恵まれたくてまたロトを買う
(流水) お恵みの言葉はそっと置いてきた紙ナプキンに包んでままで