題詠100首選歌集(その58)

 ふと見たら、このブログのページビューが20万件を超えており、アクセスも8万5千件近くに達している。多分相当程度は、この選歌を御覧になっておられる方々のお蔭なのだろうと思う。良く判らないままに、ブログの作者としては無邪気に喜んでいるところだ。至って勝手な選歌であり、勝手なブログなのだが、今後ともよろしくお願いします。

  

      選歌集・その58


032:ルージュ(178〜202)
今泉洋子) 青春の最中にもどり若やぎぬ「ルージュの伝言」幾度も聴きて
(田丸まひる)もう誰のくれたルージュか分からないつもりでもまだ苦い桃色
(やや) 桃色のルージュがこぼしたとりどりの光消えゆく九月真夜中
(里坂季夜)紅くないルージュばかりの引き出しに決して笑わぬ二十歳の写真
(夏椿) ゆふぐれの裂け目に生れし哀しみの影ぬり込める緋色のルージュ
(下坂武人)もう二度とつかうことないアドレスを真っ赤なルージュでぬりつぶしてる
(佐山みはる)ルージュまでぬり終えて女(ひと)は微笑みぬ鏡のなかの女(ひと)に向かいて
061:@(104〜130)
ひぐらしひなつ) 名のあとに「@夏空」と青い字で書き添えられた葉書舞い込む
(ジテンふみお)やわらかく繋がることを祈りつつ@の芯を揺さぶる
(綾倉)こっそりと@(アットマーク)と呼んでいる そんな彼女のつむじを愛でる
(内田かおり) 痛みさえ@(アットマーク)で和らげて埋み火を持つ言の葉そよぐ
(大辻隆弘) あかつきの皿に載せたるいちまいの耳たぶに似て@(アット)冴えたり
063:スリッパ(102〜128)
ひぐらしひなつ) 並べられてすこし乱れたスリッパが医院の春の日暮れに冷える
(ワンコ山田) 片方が裏向く予報真夜中のベッドルームのスリッパは重い
(内田かおり) 玄関に脱ぎ放たれたスリッパの気配は朝の光の交差
(大辻隆弘) スリッパのおもてに張られたる布が足裏(あうら)にねばみくるまでの雨
064:可憐(101〜126)
(ジテンふみお) 絵日記の可憐な耳の正体を訊ねて北のキツネの親子
(こすぎ) 甥姪を可憐過ぎると言い切って親バカならぬバカ叔母になる
(近藤かすみ) そのままのおまへでいいよ秋海棠どこに咲いてもひたすら可憐
076:ジャンプ(77〜103)
(紫月雲) 夏袈裟の坊主がジャンプを読んでいてうだるる午後のプラットフォーム
(橘 みちよ) 虫かごを持ち兄を追ふ妹のジャンプスーツの花咲く草原
(萱野芙蓉)ジャンプする中野友加里の巻き足の妖精よりも濃ゆきを愛す
(夏椿)バー越ゆる一瞬の弧の美しく立ち去り難く見しハイジャンプ
077:横(78〜102)
月夜野兎) 本を読む君の横顔ただ見てた茜に染まりゆく時までも
(橘 みちよ) 闇のなか縦横無尽に巡らせる鬱の触手にからめとられて
(佐原みつる)まだ何か言いたいような顔をして横断歩道を渡りはじめる
079:児(76〜100)
(橘 みちよ) 奥の院木の間隠れに気配して稚児のすがたの牛若過ぐや
(帯一鐘信) まだ早い果実がゆれる休日の幼児プールに枯葉が満ちる
(暮夜 宴) 散らばった積み木細工の原色が静かに燃える秋の小児科
(やすまる) 新生児のなく声はしてまどろみは砂糖水へと溶け込んでゆく
(佐原みつる) 児童館に冷房はなく切り取った折り紙がまた腕に貼りつく
(夏椿)おのが身をしろき闇へと葬れり蚕児(かひこ)ふたたび生まるるために
080:Lサイズ(77〜101)
(ほたる) Lサイズの冷えたポテトを気にしつつ鳴らない携帯見つめ続ける
(美木)デパ地下で迷わずLサイズを買ってふたり暮らしを装ってみる
(佐原みつる) Mサイズ、Lサイズの並ぶ売り場にて六個パックの卵を選ぶ
(本田鈴雨)Lサイズの夫でなくてよかつたとアイロンかけつつ思ふ八月
087:天使(53〜77)
(寺田ゆたか)堕天使をふと憧るることありき雷雲割れてなだれ落ちし日
(紫月雲) 無防備な天使の小さき大の字に無限の未来をみたるしあわせ
088: 錯(52〜77)
(寺田ゆたか) 倒錯の愛にも似たる思ひあり珍陀(ちんだ)の酒の揺るるギヤマン
(ゆふ)全ては錯覚からはじまつた あの日の夕日は赫くなかった
(斉藤そよ) 恋しさが錯綜してる秋の野のエゾノコンギク なにを話そう
(はらっぱちひろ)臆病と思い上がりが錯綜し二〇センチの距離こわせない