題詠100首選歌集(その65)

 8ヶ月間近く楽しんで来た題詠100首も、いよいよ大詰めに入った。最終題も、やっと3巡目終了。去年のデータを見たら、10月26日に3巡目が終了している。また、「選歌集・その65」は、最終日の10月31日になっている。こうしてみると、去年よりは大分ハイペースのようだ。残り半月を楽しみにしている。もっとも、最終日あたりのゴールラッシュを想像すると、選歌もいささか重荷に感じないわけではないが・・・。


         選歌集・その65


044:鈴(155〜179)
(吉浦玲子) わが一生(ひとよ)に一人のみ知る鈴木姓長身なりしのみを記憶す
(田中彼方)伝鈴が鳴りゆっくりと動きだす都電は君の町へ行かない。
(里坂季夜)敗戦にバブルに地球温暖化われ関せずと風鈴は鳴る
(つばめ)空文化せし戒律に鈴鳴らす托鉢僧の経が眠たし
(寒竹茄子夫)鈴掛(すずかけ)の樹肌をなでて春雷の遠のく午後をゆつくり濡るる
059:ごはん(127〜151)
(原 梓) 何かひとつ確かに終わるああ今夜のごはんはきっと炊き込みご飯
(つばめ) ごはん粒ひとつも生み出すことのない我らの仕事を我らは誇る
(月原真幸)炊きたてのごはんの味を思い出すことはできないまま生きている
076:ジャンプ(104〜128)
(市川周)さようなら二十世紀の月曜日少年ジャンプのある月曜日
(八朔) 詰襟と全日制の片思い少年ジャンプ卒業すべし
(泉) 小さき手が離せし赤き風船にジャンプしてをり周りの人も
(勺 禰子)ジャンプ傘ぽんと開けば身に余る幅を憂いて朝あゆみ出す
079:児(101〜126)
(ワンコ山田)卒論は『児童文学の離婚像』別れる恋はしないつもりで
(近藤かすみ) 幼なかりしわが子の姿をつい探す秋の日保育園児の行列
ひぐらしひなつ)公団のはずれの児童公園に夏は朽ちつつまだ影を追う
(睡蓮。)運動会ポーニョポニョ魚の子園児のダンスどこもおんなじ
佐藤紀子) 二歳児がつま先立ちをするときに少し近づく五歳への距離
(村上きわみ)結び目のすこしゆるんだ兵児帯が先へ先へとゆく夏でした
080:Lサイズ(102〜126)
(ワンコ山田)遺伝上LLサイズ生む種子(たね)のどこかに気弱が隠されている
(近藤かすみ) ラファエロの描(ゑが)くをみなは艶やかな肌に纏はむLLサイズ
090:メダル(76〜100)
(五十嵐きよみ) 抽斗のメダルやコインを磨き上げ満ち足りていたあの夏の日は
(暮夜 宴) 金メダルみたいな月の夜に聴く歌を忘れたカナリアの唄
(水都 歩)園児らの胸に輝く金メダル運動会は無事終了す
(佐原みつる)メダル集めに夢中になったあの頃に青い栞は挟まれたまま
097:訴(52〜77)
(大辻隆弘) 憎しみを愛の至純にいたらしめイスカリオテのユダは訴ふ
(minto) これと言ふ不定愁訴も見当たらず折り返し点過ぎつつあらむ
(帯一鐘信)  新宿のゴミに埋もれて朝焼けを浴びる勝訴の紙の切れ端
(暮夜 宴) 夕焼けに直訴されてる帰り道あたしはあたしを抱きしめるだけ
098:地下(51〜76)
(村木美月) 子供のころ迷路に見えたデパ地下にかなしい日には寄る癖がある
(流水) 地下鉄の窓に映った顔がある こんなに遠く過ぎて来たのか
(夏椿) 咳払ひのこして父の留守電は切れたり孤独あふるる地下に
(秋ひもの) 地下鉄の最後尾より遠ざかる暗がりにまた明日も還る
(minto) 地下鉄も地下室もなき土地なれば大根白く冬の陽ためり
(大辻隆弘)地下通路のぼりくるとき明るくてはや色づける欅と空と
(桑原憂太郎) 体育館の地下に置かれし飛び箱の中に昭和の牛乳パツク
099:勇(51〜75) 
(村木美月)あのひとの計り知れない悲しみを知る勇気だけ持って行きます
(井関広志) 幻の一人称をくくり上げ重きに抗う勇魚(いさな)獲り綱
100:おやすみ(53〜77)
(ジテンふみお)おだやかにおやすみ言える毎日を雲のない日に限って願う
(村木美月)今宵また万葉の恋を照らすためおやすみなさい真昼の月
(流水)真っ白な月の光が降る夜も寂しくはない 君に「おやすみ」
(大辻隆弘)もくせいの花を敷きたる甃(いし)みちが灯の下に見え「おやすみ」と言ふ