火星人ゴーホーム

 ご存じの方も多いと思うが、フレドリック・ブラウンの「火星人ゴーホーム」は、1955年に出版された有名なSF小説である。世界の至るところに火星人が突如出現し、人類が大混乱に陥るというユーモラスな作品で、私も随分前に読んだ記憶があるのだが、電車の中での時間潰しなどのために、つい最近書庫から引っ張り出して読み直したばかりだ。
 今日書こうと思っているのは、その小説自体の話ではなく、その中の小さなエピソードの中での都市の名前である。その小説の後半に、次のような一節がある。
 「・・・・自然科学者たちは、(略)火星人研究にいそしんでいた。(略)実際の戦線は世界中のすべての大研究所を本拠としていた。ブルックヘイブン、ロス・アラモス、ハーウィッチ、ブラウンシュヴァイク、ズーミグラード、トロイツク、徳山と、これだけでも僅か一部分にすぎなかった。」(稲葉明雄訳。なお、それぞれの都市名には簡単な訳注が付いている。)


 ブルックヘイブン、ロス・アラモスあたりは、原子力関係で聞いた記憶のある地名であり、大きな研究所がありそうな地域である。ほかの地名はあまり馴染みがないのだが、私が意外に思ったのは「徳山」の出現である。「徳山」と言えば、おそらく山口県徳山市だろう。同市は、山陽新幹線の駅もある人口10万人台の中都市であり、終戦までは海軍の燃料廠があり、激しい爆撃の標的となった。戦後は、その跡地の活用などにより、石油精製や化学工業が盛んな工業都市に成長した。しかし、特筆すべき「大きな研究所」があるということを聞いた記憶はないし、国際的に有名な都市というわけでもない。なぜフレドリック・ブラウンがこの小説の中で「徳山」を登場させたのか、その理由がさっぱり判らないのだ。作者に何か誤解があったのか、作者と何かの地縁があったのか、あるいは戦時中の爆撃の標的としてアメリカで重視されていたのか、それとも何かのパロディーなのか、私には全く想像がつかない。
 
 それだけの話である。あるいはSFに詳しい方の間では周知の話なのかも知れないし、徳山の地元にはその辺の事情をご存じの方もおられるかも知れないが、もしこのブログがそのような方のお目に留まって、その理由をお教え頂ければありがたい話である。
 なお、「徳山市」は、最近新南陽市等と合併して、現在は「周南市」と名前を変えている。