題詠100首選歌集(その68)

 締切りもあと1週間になり、最終題も4周した。もっとも、二重投稿や誤投稿もあるので、「題100」の場合、まだ正味100首には達していないのだが・・・。
 この分だと、完走者が150人くらいには達するのではないかと思っている。ちなみに、去年は、選歌集68に届いたのは最終日だから、それよりは大分ペースが速いようだ。これからゴールラッシュになるのが楽しみでもあり、選歌のラッシュとその後の百人一首を考えれば少々怖くもあるのが正直なところだ。


             選歌集・その68


019:豆腐(234〜259)
(みゆ)棘々の言葉を吐いた日に食す揚げだし豆腐とろりと優し
(八朔) 豆腐にも食うに食われぬ意地がある無理に優しくしなくていいよ
(宵月冴音) 寒豆腐もろり崩して湯気を待つ冬の旅籠の夕餉の鉢に
(わらじ虫) 味噌汁の豆腐のように本心をそろりそろりと八つ裂きにする
047:ひまわり(158〜186)
(吉浦玲子) 茎太く巨(おほ)きな顔のひまわりををさなきわれはひたに怖れき
(坂口竜太)運悪く黄色いTシャツ着てるからひまわりみたいに泣けないでいる
(冬鳥) いらいらと繰り返される呼出音ひまわり燃ゆる部屋をあとにす
(佐山みはる) ひまわりの黄色は吾に足らぬ色十指を夏の陽にひらけども
(里坂季夜)雨だからひまわり色のシャツを着て笑顔に逢いに出かけましょうか
066:ひとりごと(131〜155)
(内田かおり)俯いた薄穂の中風抜けてひとりごとめく秋の揺らめき
(村上きわみ)ひとりごとつなげて遊ぶ三歳のうぶ毛をなでるおだやかな風
(泉)ひとりごと言へぬ樹木は風に揺れ葉擦れの音をつぶやきとせり
(月原真幸)今日もまた各駅停車に乗り込んでひとりごとごと運ばれていく
(我妻俊樹) きみがいつもひとりごと言うときにするまばたきに似たホームのあかり
(佐山みはる) 語尾強くひとりごと言うひとがいてそののち深きしじまはきたる
082: 研(104〜128)
(minto)刃物研ぐ行為に似てる素の我に還りゆくまで米を洗はむ
(近藤かすみ) すこしづつ研がれて細くなつてゆく下つ弓張みんなみの空
佐藤紀子)研修の最終日なり 分かれればおそらくはもう逢はぬ同士で
(村上きわみ) 大いなるものに研がれし空なれば構えもひくく冬に入りゆく
(泉) 君に会ふけふ一日の加護欲しく鏡研きぬ等身大の
(史之春風) 研究の道に進めば大成の芽もあったろう 便器を磨く
(内田かおり)指の間に白く尖った音乗せて薄刃研ぎ出すひとりの厨
085:うがい(101〜125)
(萱野芙蓉) すがやかにうがひ薬がしみとほるよくない言葉吐き出す喉に
(近藤かすみ)うがひする水に濁りのあらぬこと幸ひとして朝は始まる
(村上きわみ)泣いたほうがいいよ さかさに挿してある背表紙ばかり見つめてないで
(泉)帰り来し儀式の如くうがいして勤め人とふ顔を脱ぎたり
(虫) うがいした水を吐き出す裏庭に赤くしおれたままの紫陽花
086:恵(105〜130)
(萱野芙蓉) すぐに泣くゆゑおもしろく妹の手からうばひし銀の知恵の輪
(ワンコ山田)おしゃべりなロック多すぎひとときの恵方ロールは黙ってかじる
(泉) 女児(をみなご)に恵まれざれば今もなほ人形・千代紙吾がために買ふ
097:訴(78〜102)
(はらっぱちひろ) 怒るでも媚びるでもなく雨の日の遠い案山子のような訴え
(橘 みちよ) 高みへと夕光(ゆふかげ)ふふむ雲伸びて訴へかくる今日のわが罪
(勺 禰子) 「訴」といふは「逆方向に切り込みを入れる」と電子辞書のたまひき
(佐原みつる) 訴えは退けられて秋空の寂しいような青を見ている
(近藤かすみ)訴へてどうなるものでもないことの多きこのごろひじき豆煮る
098:地下(77〜101)
(はらっぱちひろ) すべてから遠ざかりたい足音を響かせながら泳ぐ地下街
(暮夜 宴) 10月の夜を歩けば地下鉄のザジの笑顔が追いかけてくる
(ほたる)デパ地下のガラスケースは幸せの賞味期限のラベルを付ける
(佐原みつる) こちらでもなければあちらでもなくて地下駐車場に響く足音
(近藤かすみ)「何処にゐても死ぬときは死ぬ」つぶやいてけふも下りゆく地下駅ホーム
099:勇(76〜100)
(ほたる)シルクのリボン解く勇気もない朝はひたすら甘い紅茶を淹れる
(青野ことり)ささくれをつくる勇気を持たぬまま曖昧な笑み浮かべうなずく
100:おやすみ(78〜102)
(暮夜 宴)「おやすみ」のすみの方からぽろぽろと零れるゆめの欠片が痛い
(岡本雅哉) 「さようなら」「ごめんなさい」をいっぺんにいっちゃおうかな「おやすみなさい」
(陸王) 貴方には弟たちがいるのよと母の隣りで聞いたおやすみ
(村上きわみ) おやすみ、犬。おやすみ、ふかみどりの帽子。おやすみ、チチェン・イツァに降る雨。