題詠100首選歌集(その71)

 残すところ後2日。さすがに一昨日から3日続いて、在庫の数が規定数(私が勝手に決めたもので、25首・10題)に達して、選歌集が続いた。おそらく、31日には、選歌集を3つか4つ載せることになるのだと思う。



        選歌集・その71   


032:ルージュ(202〜227)
(みち。) 纏いつく罪悪感を塗りつぶすためにひたすらひく濃いルージュ
(春畑 茜) 見飽きたるをとこをひとり棄つるがにローズピンクのルージュをほかす
(吹原あやめ)薔薇色のルージュをひいたくちびるはゆるくひらいて嘘をさしだす
056:悩(152〜177)
(佐山みはる)ほおづえをつけば悩みがあるようで雨を見ている海辺の店に
(藤野唯) ペチュニアがうまく育たないのが悩みだと笑う彼女の過去5年間
058:帽(152〜176)
(久野はすみ) 守るべき姫をもたざる騎士のごとうつろを抱く帽子箱あり
(田中彼方)好きな子にずっと会えない夏休み。「麦わら帽子なんか嫌いだ」
(里坂季夜)飛ばされた帽子を拾いにゆくようにライブハウスに通っています
(夏端月) 編みかけの帽子残して春が来て夏来る前に恋は終わりぬ
059:ごはん(152〜176)
(久野はすみ) うめぼしを漬けなくなった母とゆく玄米ごはんのおいしいカフェへ
(佐山みはる) 餌と言わずごはんと言うが最近のペット事情なり犬が靴はく
071:メール(131〜158)
(みゆ)意味の無い絵文字メールに惑わされ携帯放せぬピエロがひとり
(佐山みはる) 携帯に訃報は届き夕つ方メール通りに行く葬祭場
(蓮池尚秋)「三つ目の信号を右に曲がったら上にあるのが月」とメールで
(里坂季夜) 取り戻したかったメールに返信がきている 部屋が深海になる
(寒竹茄子夫)鬼籍より届くメールの深更に青黴乾酪(チーズ)を切り分けゐたり
(つばめ)「東京は雨」と書く。雨けむる日の窓の孤独を伝えるメール
072:緑(128〜152)
(幸くみこ)信号の緑が遠くつらなって歩道橋にも風吹き抜ける
(蓮池尚秋)2杯目のメロンソーダを飲み終えて見せ合う舌の緑を競う
(里坂季夜)揺れたのは木陰を抜ける風のせい届く言葉がみな深緑
(寒竹茄子夫) 風騒ぐ瀬瀬にひそめる夜の鮎緑の暈(かさ)をまとふ月かも
(つばめ) 孤独さも時に我らを肯定す黄緑色の芝生歩けば
073:寄(128〜152)
(やすたけまり) 寄宿舎の窓のむこうの空を描く 青のなかまをぜんぶ重ねて
(幸くみこ) 人寄せのサンタクロースが路地裏でひとり猫背で煙草をふかす
(内田かおり)秋ならば波も心も寄せるまで茜の雲の闇へ行くまで
(砺波湊) 寄せ鍋に入れ忘れたるしらたきのチルドルームに凍りゆく真夜
091:渇(103〜127)
(近藤かすみ) 飲むほどに渇き増しゆく秋の夜半母の写真はほほゑむばかり
(kei)渇水期があるから満ちるときがある薔薇の香りを包み込む部屋
(椎名時慈)月の夜に獣としての渇望を乾いたティッシュに吐き出している
(みゆ)夕暮れて灯り恋しい路地裏に猫の渇いた鳴き声響く
092:生い立ち(103〜127)
(近藤かすみ) 生ひ立ちを語る親族(うから)はもはやなくフエルアルバムただ眺めをり
(陸王) 視界から離れた君の生い立ちをいつか聞くこと雲に託さむ
(史之春風)リリーさんマリーさんにも人並みの生い立ちはあり紫煙の彼方
(虫)生い立ちは言わなくていい 干乾びた蝉の死骸は蹴飛ばさないで
(大宮アオイ)信州の産との君の生い立ちを仄かにもらす宴席の隅
095:しっぽ(104〜128)
(ワンコ山田) 幸せをひっかけるってかぎしっぽ媚びた動きはできない仕組み
(大宮アオイ) 夜をこめた情事のしっぽ引きずって仕事の前のコーヒー啜る
(小早川忠義)走り去る猫のしっぽのやうにして新幹線は視界より消ゆ