題詠100首選歌集(その72)

 さすがに、今日で4日選歌集が続いた。去年の今日は選歌集を2回掲載しているのだが、現在の在庫状況から見れば、今年の今日はこの1回だけになりそうだ。余すところ明日のみ。皆様のご完走をお待ちしています。



        選歌集・その72



018:集(235〜259)
(春畑 茜) 秋の日の通夜に集へるひとびとの手に手に数珠のふさ垂れてをり
(八朔)限られた言葉が作る嘘ばかり選んで編んだ歌集「団塊
(みち。) 集まってしか暮らせない僕たちはきっとだれかのなにかの一部
(水野加奈) 包帯の子も集合す長さんのおっス!聞こえる待合室に
(宵月冴音)集金の少年今日も現れず茶菓子をしまい口紅落とす
(平岡ゆめ) 動かざるモンシロチョウチョの翅集め春の汀にただ一人いる
028:供(207〜232)
(みゆ)ぼた餅を供えて父を偲ぶ夜 雲の切れ間に三日月覗く
(みち。)息絶えたものへと供える花束の息絶えているあざやかな赤
039:王子(183〜210)
(みゆ) はにかみやハンカチ、白馬も似合わぬが世界にひとりあたしの王子
(八朔) 単線の北王子線ゆるやかにカーブを描きディーゼルが来る
(夏端月) 王子ならいつかは王になるという御伽噺は未来を書かぬ
(天井桃)王子様待たずに冒険行く事を決めて少女は大人となりぬ
040:粘(176〜201)
(寒竹茄子夫) 納豆かけごはんの粘る玉響(たまゆら)の懈(たゆ)きを思(も)へば降る草の雨
(あいっち)いつまでも乾かぬような色のまま紙の粘土は乾きゆきたり
(はせがわゆづ)瞬きの数だけ紙粘土の中へたしかに少年期を閉じこめた
041:存在(179〜203)
(寒竹茄子夫)存在の秋(とき)は過ぎにし曇天を突きさす檜(ひのき)寒く聳ゆる
(あいっち)かなしみは存在感を増やしつつ秋のはじめのわれに入りくる
(みち。)居ないのに存在しているあなたから抜け出せないまま指輪をはめる
(わらじ虫) 存在を確かめたくて駆け出した夢がめくってゆくカレンダー
今泉洋子) ささやかなわが生なれど存在の証明(あかし)とならん歌を詠みゆく
074:銀行(129〜154) 
(お気楽堂)新しいカードはピンクどうせすぐ二桁になる銀行口座
075:量(127〜152)
(みゆ) 見上げればきりがないから身の丈に納まるだけの少量の欲
(砺波湊)飲み終えたドリンク剤のタウリンの含有量を確かめている
(里坂季夜) 分量を間違えたのでぼくだけの君をなくした もうすぐ冬だ
(寒竹茄子夫)虹顕(た)ちて友の雅量に謝すゆふべ古酒酌みかはせば篁さやぐ
(水野加奈)切花の枯れてゆくのが嫌と言い計量カップにアスパラを挿す
078:合図(127〜152)
(大宮アオイ)微妙なる関係なれば収束の合図もおぼろな君を悲しむ
(田中彼方) 腕時計はずしてルージュふく君の合図にふっと、冷めてゆく夜。
(里坂季夜)膨らんだ月下美人が合図なく入れたのだろう夜のスイッチ
080:Lサイズ(127〜152)
(原 梓)Lサイズに引き伸ばされし幸福の輪郭線はぼやけておりぬ
(はせがわゆづ) 少しだけ大きいねって肩さらすLサイズのシャツあなたの香り
(夏端月) 100円で詰め放題の芋のごとLサイズの身に押し込める夢
096:複(101〜127)
(ワンコ山田) 小走りで複々線の踏み切りをぬけて今から隣の校区
(やすたけまり) 春はまだ始発列車の風もまだ はばたくまえの羽状複葉