題詠100首選歌集(その73、74&75)

 昨夜はひさびさにカラオケに誘われて帰りは深夜になったので、選歌は後回しにしてしまった。今日はさすがに在庫が急増している。おそらく、今日の日付で、あと2つか3つ、選歌集を追加することになるのだろうと思う。(12:45記)


            選歌集・その73


008:守(277〜301) 
(夏椿)「妻」といふ名に守られて前列に咲く花々よ陰など知らず
(坂口竜太)今年から一人暮らしを始めます 母のカップをお守りにして
(平岡ゆめ)寝付かれぬ夜に守宮の吸盤の色や形をおさらいし合う
054:笛(155〜181) 
(emi)口笛の吹き方を知る少年は幾度目の夏を思い出すのか
(里坂季夜) たて笛と給食袋を装備したランドセルの子を最近見ない
(水野加奈) 息吸えばかすかに苦し蒲公英の笛を鳴らして帰る坂道
(きくこ) 笛の音に降臨招く能舞台舞の袖にも秋風の吹く
(小野伊都子) またひとつ特技が増えた 川原にはふたりで鳴らす指笛の音
今泉洋子) 子らのふく篠笛たかくこだまして獅子舞は町を一巡したり
057:パジャマ(156〜181)
(佐山みはる) 母の日に贈りしパジャマ着ておりぬ去年より小さくなって母は
(夏端月)あのひとに見せることすら忘れてたパジャマを一人しまう旅の後
(水野加奈) 来月も生きるつもりでこころもちきつめに入れるパジャマのゴムを
062:浅(154〜179)
(花夢)わかりあうために生まれたわけでなくいつも浅瀬で水をかけあう
(蓮池尚秋) サンダルを浅く履いてることがもう答えなのかと深読みをする
(瑞紀) 泣きながら目覚めた朝はことさらに音立てて食む浅漬け胡瓜
(やや)浅すぎるビブラートのせいもどかしい想い燃やして夕闇が来る
076:ジャンプ(129〜161)
(桶田 沙美)スカートの乱れ気にせずジャンプした世界の先に君がいるから
(寒竹茄子夫) 白雨さりて子のジャンプするにはたづみカンナの花の輝く真下
(つばめ) 月曜の最終電車でまどろめる学生少年ジャンプを抱けり
(佐山みはる) 逆さ吊りのカードの男を思わせてバンジージャンプたまゆらを死す
077:横(129〜160)
(大宮アオイ)たった今恋を失くしたばかりだと気づかぬ君と歩む横丁
(里坂季夜) ビンテージギターを磨く横顔をひとりじめして笑う満月
(はせがわゆづ)隠された本音探りつつとりあえず横断歩道を渡り始める
(翔)それなりの匂い漂いそれなりの奥行きがいい小便横丁
今泉洋子)わが気持ち気づかれぬやう君の横通り過ぐる時足早になる
(瑞紀)鉄橋を渡り行くときわが横で居眠りをする人の皺見ゆ
(幸くみこ) 横風の東西線の窓枠にハズレ馬券をかざす夕焼け
(久野はすみ)新しいツリーの箱を横抱きに街ゆけばふいに歌ひとつ鳴る
079:児(127〜151)
(冬鳥)かに!かに!と叫んで児らはお布団の海の模様にくるまれて寝る
(里坂季夜)園児らの声が奏でる主旋律どんぐり踏めば装飾音符
081:嵐(126〜157)
(冬鳥) 風神が虫篭を開け解き放つ嵐 晩夏の空の果てまで
(我妻俊樹)目ぐすりをさしながら聞く敷きたての途が嵐をさまよう話
(寒竹茄子夫)嵐の晩に明かりを消してひとりなる仙人掌蒼くひえびえと存(あ)り
(里坂季夜)出る杭は打たれ花には嵐とか咲かぬ花にもつぼみのドラマ
(萩 はるか)身の内に嵐を纏う雪景色いつかは果てる足跡を追う
(佐山みはる) 嵐雪の句集ひらけば一輪の梅の白きのほのあたたかし
082:研(129〜156)
(冬鳥) 耳痛きまでに研ぎ澄まされてゆく静寂 私のなかにある森
(つばめ) 生活の自己目的化せしことを見ゆ一合の米を研ぐとき
今泉洋子)米を研ぐ水ひいやりと秋刀魚焼く匂ひたちこめ厨秋めく
(夏端月) 知りたくもないことばかり聞かされてくちびる噛んで米を研ぐ夜
083:名古屋(128〜158)
(内田かおり)運転手の名古屋ことばを聞きながら流れて人は思い出の中
(寒竹茄子夫)雨催ひの名古屋の午後の冥きかな外郎(ういろう)食めば皓歯の昔
(藤野唯) 朝5時に名古屋に出張する人のために焼いてる厚焼き玉子
今泉洋子)憂き人のこと考ふる白秋に枳殻(からたち)柄の名古屋帯締む




 一休みして選歌を再開したら、在庫が早くも規定数に達したので、今日2回目の選歌集をお届けする。多分夜には3回目をお届けすることになるのだろうと思う。今日はうすら寒い気候で、思い立って床暖房を点けてみたところだ。(15:08記)


           選歌集・その74


084:球(130〜154)
(つばめ)地球儀の国境線をかるがると越えて小さな指が旅する
(今泉洋子) ガガーリンの目に映りたるこの地球如何なる青か紫陽花を活く
(翔) 電球の中の蛍光管うねりボトルシップの帆は風受ける
085:うがい(126〜153)
ひぐらしひなつ) 雪の朝に頸傾けてうがいするあなたのための薄い塩水
(里坂季夜) フェッセンデンの宇宙のことなどおもいつつうがい薬を舌にころがす
(寒竹茄子夫)朝朝のうがひの空の秋つばめ銀の盥に風切(かざきり)映し
(つばめ)ぬるき湯にうがい薬を溶く指の去年の秋よりくすむ銀色
(萩 はるか)また犬がうがいのような声を出す「膝の雑誌をどかしてほしい」
086:恵(131〜161)
ひぐらしひなつ)この恋を喩えるならば夏の日の恵比寿神社の森に死ぬ蝉
(矢島かずのり)さよならをもう言われない幸せなひとりっきりに恵まれている
(寒竹茄子夫)一皿の桜桃恵まれたるゆふべ夏の少女は白馬(あを)に乗りて来(く)
(つばめ) 鉢植えに咲く花のごと恩恵に浴しつ我に芽吹くかなしみ
(萩 はるか) 泣き面にピンクのネイルもう笑顔たぶん女は恵まれている
089:減(129〜153)
(原 梓) 朱の色の通帳繰ると減ってゆく数字、増えてゆく過去
(里坂季夜)目減りしてゆくときめきを握りしめもうすこしだけこのままでいる
(内田かおり)夕暮れは人を減らして公園は少し広がる遊具の蒼さ
(今泉洋子) 減り加減加速してゆく石鹸と重ねて思ふ後半生を
ひぐらしひなつ)減るものも失うものもない秋の彩度を落とす街のただなか
093:周(105〜142)
(kei) 限りなく広がっていく水平線どうでもいいさ円周率は
(大宮アオイ)気が付けば五周年目の秋が来てコスモス畑に家の立ちおり
(本田鈴雨)われは月きみのまはりを周回す半身に暝き海をかかへて 
(泉)周航の歌教はりし吾が母校湖近く雪の比良見ゆ
(小野伊都子)ゆっくりと歩き始める冬の日に一周遅れの恋あたためる
(内田かおり) 一周忌のざわめきの中ささくれと安堵の匂い棘のない薔薇
(月原真幸) 夕暮れの周回遅れのいいわけをしないつもりで結ぶ靴ひも
(萩 はるか)はじめての町を一周いいものをいいことだけを地図に落として
(寒竹茄子夫) 別れの刻 瑯玕山河に鏤(ちりば)めて冬の摩周湖そこしれず澄む
ひぐらしひなつ)一周忌終えて無音のひだまりに古い手紙をようやくひらく
(幸くみこ) 身体ごと宿のコタツに詰め込んで周遊券はまっさらのまま
094:沈黙(103〜141)
(椎名時慈)弁解はしない男の沈黙に金木犀の香りがゆれる
(kei)沈黙は鋭いナイフ今日もまたひとり芝居を始めてしまう
(泉)沈黙の続く電話の向うよりショパンらしきがかすかに聞こゆ
(みゆ)感情を言葉にしたら褪せそうで温めている沈黙の時間(とき)
(つばめ)泣いている子どもと母を見ないふりしてる電車に揺れる沈黙
(内田かおり) 夕べ地は沈黙の途を辿りつつ染みる夕陽にふと明日を見る
(里坂季夜)今きみの欲しい言葉はわかってて受信画面の青い沈黙
(幸くみこ)沈黙をただ断ちたくて掃除機の不具合なんかをだらだら話す
097:訴(103〜137)
(内田かおり) 青色に光る目二つ訴えてそのとき子猫は飼い猫になる
(里坂季夜)ありがちな不定愁訴は気のせいとさっとゆすいでシンクに流す
098:地下(102〜137)
(kei)地下道に秋の終わりの風送る換気塔には大きな蜻蛉
(小早川忠義)琴の音の発車のベルもやはらかし古都の地下なる京阪電車
(遠藤しなもん) 地下鉄の風は太古の昔から吹いてるみたい 君にあいたい
(泉)地下街に冷たきブルー点滅す空なき街の聖樹飾りて
(寒竹茄子夫) 地下室の手帖の皮の罅現(あ)れて従軍の伯父の日録凛(さむ)き
099:勇(101〜138)
(湯山昌樹) わずかなる勇気があれば人生が変わっていたかと悔やむあの夏...
(やすたけまり) 手を挙げる勇気がなくて校庭の真上にのぼる気球をみてた
(みゆ) もう一歩踏み出す勇気が持てぬのを誰かのせいにしたい雨降り
(内田かおり)ときどきは勇み足してときどきは後ずさりするこの小さき道
100:おやすみ(103〜139)
(青野ことり) しあわせの種をひと粒みつけたら夢の地平に蒔いて おやすみ
(やすたけまり) ねむってる顔は市バスのなかでしか見たことないひと おやすみなさい
(五七調アトリエ雅亭)一日の 終わりを締める 「おやすみ」を 君の口から 聞きたくなった♪
(五十嵐きよみ)人生の未知なることを畏れたり愛したりして、今日もおやすみ
(kei)おやすみの言葉はキャラメルの甘さ眠りの底で探す空き箱
(泉)「三びきのくま」読み終へて本おけば子ぐまらのいふ「おやすみなさい」

 

 
 在庫が規定数に達したので、選歌集その75をお届けします。締切りまであと1時間足らず、もう1回選歌集をまとめる数には達しないと思うので、明日、残りをまとめて選歌したいと思っています。まだラストスパートの方もおられると思いますが、あと一息です。どうか御健闘下さい。それ以外の皆様お疲れさまでした。(23:15記)


           選歌集・その75


031:忍(206〜231)
(つばめ) 結婚は所詮忍従のみが美と諦めている庭のたんぽぽ
(水野加奈)陽にすこしふくらんでいるカーテンへ猫は近づく忍び足して
(吹原あやめ)なつかしい声にふるえる忍草さみしかったといまならいえる
061:@(156〜180)
(夏端月) かたつむりほどの気持ちで待てるよう@(アットマーク)を静かに眺む
(桶田 沙美) さりげなく@マークの右側に本音をちらり書いてみようか
(はせがわゆづ) 返信を待つうち迷い込む深夜の@の渦の中心
064:可憐(152〜176)
(花夢)可憐さを売ろうとしない八月の終わりのようなまなざしで見る
(やや) 遠い日の音楽室の香りして気のすむまでを可憐に過ごす
087:天使(129〜154)
(つばめ) それもまたひとつの別れと知らぬまま風に綿毛をあそばす天使
(萩 はるか) 木立枯らし冬の天使が死を抱(いだ)く来世は人となる狐の子
(内田かおり)それぞれに見えない天使の羽を持つ幼き肩に光が過ぎる
(今泉洋子) 今朝咲いた「天使のラッパ」うす黄にうつむいたまま風に揺れゐる
088:錯(129〜155)
(つばめ) 父の生き方を嫌いし少年のその日その日の夢の錯綜
(内田かおり)幸せは今日の錯覚手のひらに過ぎゆくものを数えるごとく
(今泉洋子)君のことわかつたやうに錯覚すふたりの時間の熟れていく午後
(砺波湊)mistakeあるいはerror? 和英辞書閉じる「錯誤」は「錯誤」のままに
090:メダル(126〜150)
(つばめ)旧姓を持つ我にとり名前とは記念メダルの刻印の誤字
(小野伊都子) 透明なメダルをあげる ふたりしか知らないことを胸に刻んで
(今泉洋子)結婚の運は大吉と占はれ金メダルにも見ゆけふの月
ひぐらしひなつ)一枚のメダルが忘れられたまま兄の遺品の文机に棲む
091:渇(128〜152)
(つばめ)遺書めける恋文書きて渇きゆく十七歳の我の純情
(里坂季夜) 空腹と渇きをラテで退治して一直勤務あと三時間
(幸くみこ)キャラメルの格子みたいに手の甲は渇いて冬がそこまできてる
(砺波湊)啜りたき樹液に呑まれ息絶えた羽虫の渇きをおもう夏の夜
092:生い立ち(128〜153)
(藤野唯) 秋晴れの日に縁側で聞いている7回忌過ぎた祖父の生い立ち
(萩 はるか) 生い立ちのスライドショーにはにかんだ義妹(いもうと)の目はどれもまっすぐ
(小椋庵月) チンを待つ笑顔も曇る あいまいな生い立ち語る材料表示
(今泉洋子)生ひ立ちを語り初む時少年のひとみに秋の海がひろがる
095:しっぽ(129〜155)
(内田かおり) くるくると自分のしっぽを追いかけて子猫は踊る母を忘れて
(里坂季夜) 思春期のしっぽが跳ねてとまらない十月 天に桃色の月
(寒竹茄子夫)しつぽ立て黒猫あゆむ露地の霜白き曙光にきらめきわたる
(幸くみこ)デビルマンにしっぽがあったなかったと言い合ううちに区役所に着く
(翔)傷舐めてゐし犬がふと顔をあげドアに向かいてしっぽを振りぬ
096:複(128〜154) 
(里坂季夜)複雑なことはなんにも話さないやさしいひとの罪を数える
(砺波湊)ときどきは虫になりたい複眼のすべてに真っ赤な紅葉を映す
(夏端月) 複雑なルールにいつもごまかされカードゲームがまだ終わらない
(萩 はるか)それなりに絶えない恋の遍歴か誰かと重複する肌触り