題詠100首選歌集(その2)

 まだ在庫25首以上の題は9題しかないのだが、001は60首の在庫があったので、これは2題分と勝手に解釈して、選歌集その2を掲載したい。


    選歌集・その2

001:笑(63〜122)
(志慧) 4階のトイレの鏡が知っているあなたにあげるはずだった笑み
(ふみまろ)この顔を全部知ってる鏡には作り笑いは無駄だと知った
(髭彦)をさなごの無邪気な笑ひ目に耳になによりうれし六十路のわれに
(海里)単色で過ぎゆく日々の笑顔には裏に涙が染みついている
(O.F.) 立春河合奈保子の非現実白い笑顔の画面が粗い
(湯山昌樹)公式戦初めて勝ちたる娘らは笑顔まぶしくベンチへ帰る...
(笹本奈緒) 使えない上に向こうが透けそうなその笑いかた白いおりがみ
002:一日(40〜70)
(風天のぼ) おさなごの一日(ひとひ)のように過ごしたし雨戸のむこうにすずめ鳴く声
(中村成志)快感を指のすき間に宿すため崩れた一日(ひとひ)掬いつづける
(英田柚有子) あたたかい手のひらだった ありえないくらい短い一日だった
(小早川忠義)誰もをらぬ下校時刻の廊下にてアツプテンポの「一日の終わり」
003:助(34〜58)
(西野明日香) 泣いたって助けてくれないことくらい知っているからアイライン引く
(萩 はるか)溺れても助けを呼べぬ恋の咎ペディキュアなおす指が震える
(わだたかし)「助けて」と叫んでみたら「助けて」と言い返される そんな毎日
(祢莉) 「王子など助けなければよかった」と人魚のようにつぶやく夜中
(新井恭子)助かっているのは私なのに何故欠けた月夜の真下を走る
(都季)憂鬱な月曜に立ち向かうため青空めがけて助走する朝
004:ひだまり(1〜43)
jonny) 握ってた手をひだまりで開いたら光の粒が空にのぼった
(船坂圭之介)のどかなるひだまりに居り透析に疲れたる身に優しかりせば
(アンタレス)老い籠り寒のひだまりぬくもりを猫とわたしのじゃれあう平和
(蓮野 唯)助け船出すのをじっと我慢して見守っているひだまりの外
(萩 はるか)泣きやんでマスカラ剥げたへんな顔ゆるしてくれる君はひだまり
(音波)わたしたち ひだまりの中 とけてゆく さよならまでの あと三時間
(原田 町)立春のひだまりのなか一匹の花虻いるを見ておりしばし
(梅田啓子)ひだまりに夫と肉まん食みてをり ずつと死なないやうな気がする
(湘南坊主) そとまわりひだまりさがしとおまわりそのこだわりがついわだかまり
(鳥羽省三)ひだまりをひざげりと読む児らの居てわが教室の春まだ浅し
005:調(1〜29)
(船坂圭之介)冬の陽の頬に優しきひとときは心不調のまま為す午睡
(月下燕)すべり落つ調律師の指ひややかにピアニッシモを響かせてゆく
(みずき)地震(なゐ)の日へ灯すらふそく追悼の調べに揺れて甦る日日
(Re:)調べものしているフリして受付のあの子が気になる図書室の午後
(文月育葉)オカリナの調べに乗せてやわらかな言葉を紡ぎだす夜想曲ノクターン
006:水玉(1〜33)
(アンタレス)噴水の砕けて落ちる水玉に小鳥の群れのにぎわう真夏
(みずき)蜘蛛の巣へ雨後の水玉きらきらと蝶の翅なし夜へ消えゆく
(五十嵐きよみ) 十代の少女とおなじ水玉のリボンと気づきそっとほどいた
(鳥羽省三) 水玉のシャツ着て街を行くときは何故かはじけてステップを踏む
007:ランチ(1〜28)
jonny)いつもより遅めのランチタイムには気だるい午後の獣が集う
(蓮野 唯) 黄緑の水玉模様お出迎えランチ彩るテーブルクロス
(木村比呂)赤、黄、灰 ランチボックス散ってゆきビル影のびる風の公園
008:飾(1〜25)
(小早川忠義)母ひとり女にあれば飾り雛厨の端に菜の花を添へ
(鳥羽省三)神持たぬ我が窓にまで光(かげ)寄せて虚飾電飾聖しこの夜
(梅田啓子)人知れず消えてゆきたきこの夜はカサブランカを机に飾る
(行方祐美)飾磨紺のスカーフ風が攫うとき冷ややかに鳴る赤きケータイ
(minto)飾られしミントの葉こそ瑞々しみどり児産みし母の神秘に
009:ふわふわ(1〜26)
(みずき)ふはふはと幻想あをき夜の顔 ショパンを擬して弾くノクターン
(minto)羊水の記憶を持ちつふはふはとまだ浮きたるがに見へし赤子は
(五十嵐きよみ) シャンプーを「ふわふわ」と呼び母親の指の動きに髪をゆだねた
(梅田啓子)灯りつけ報復せむと待つわれの視野にふはふは蚊の入りくる