題詠100首選歌集(その3)

 今日の予報は、最高気温14℃とか。そう言えば、昼前にちょっと出かけたら外は春の日差しだった。選歌を読み直してみたら、「ひだまり」の歌をたくさん採っているが、それとこれとはもちろん関係ない。当然のことながら、まだまだこれから寒い日が戻って来るのだろう。



      選歌集・その3


002:一日(71〜98)
(那美子) 君想ふ今日一日は泣くことを赦してほしき寒き春の日
(詠時)花の名を一つ憶えて埋めていく今日の一日(ひとひ)の心の傷を
003:助(59〜83)
(藻上旅人)助手として残ることにしたんだねひとつの終わり五年目の春
004:ひだまり(44〜71)
(ふみまろ) 一人分だけひだまりが落ちている祖母が愛した庭の冬ざれ
(小早川忠義)ひだまりの民とふ玩具右左揃はぬままに絶へず首振る
(祢莉)ひだまりでとろとろ眠れ蜂蜜の色の日差しにとろけるように
(minto)新米の母になりたる子の白き顔透かせをりひだまりの影
(denkoo)ひだまりを駆ける子どもの声遠く冷えた布団できみと抱き合う
(ひろうたあいこ) 恋すると甘い優しいうたばかりききたくなってひだまりにいる
(藻上旅人) 学食で授業をサボる昼下がりここにはいつもひだまりがある
(星野ぐりこ) とろとろに溶ける瞼がボサノバのリズムで徐々にひだまりになる
(風天のぼ)白髪は抜けば増えると小さき母 昭和の秋のひだまりにいる
(中村成志) ひだまりのひだにまみれていっぽんのなのはながたつアスファルトみち
005:調(30〜55)
(布川イヅル)調べ糸なき糸車の紡ぐごとでたらめまじりの夏の鼻歌
006:水玉(34〜58)
(井手蜂子) また一つ増えた涙のの水玉であふれた箪笥ぎゅうと押込む
(ふみまろ) 倉敷の街より海が楽しみで遠回りする水玉ライン
(星野ぐりこ) 水玉が空から零れ落ちてきて君は小さく「雪だ」と言った
(わだたかし)キミにだけわかる合図の水玉のネクタイ巻いて行くスキー場
(都季) 100均のビニール傘もオレンジの水玉模様に変わる夕立
(風天のぼ) くもの巣に小さき水玉かがやいてハミングしたい朝がはじまる
007:ランチ(29〜55)
(行方祐美) 窓の辺に指貫走らす夢のなかランチョンマット百枚のため
(minto) 香ばしきパンを焼きたる匂ひせりランチルームに母ら集へば
(ひいらぎ) 寝坊して朝食兼ねたランチへと繰り出す二人の距離感が好き
(わだたかし)ランチには遅めだけれどオヤツには早すぎるからキミに逢いたい
(湘南坊主) ケンカしたわけじゃないのにさびしそう敷きっぱなしのランチョンマット
010:街(1〜26)
(船坂圭之介) 恐れつつなほ恋ひ止まぬ影在りて冬街角にひとり噛む韮
(アンタレス)退院し家路辿れば久々の街も家並も新しくみゆ
(みずき)街路樹に雪降る夜のくつきりと 美(は)しき時間はいつも悲しい
(小早川忠義)店先に巻き寿司を売る声にあはせ街灯こぞりて点り初めたり
(鳥羽省三)長春市大同大街ニッケビル父母の出会ひしオフィスありき
(イマイ)街路樹の樹木の名前知らぬまま夜の空港へ運ばれてゆく
(五十嵐きよみ) 街角に貼られたダンスパーティのビラ初めてのドレスで行こう
(星野ぐりこ)寂しさという名の渡り鳥が飛ぶ 次はあなたの街へ行きます
011:嫉妬(1〜25)
(蓮野 唯)嫉妬する程には好きになってない言い聞かせてる夕暮れの街
(月下燕) 君の三つ編みをとかせた後輩にどうしようもなく嫉妬している
(鳥羽省三) 嫉妬とふ単語に女ふたり居て互ひに嫉(そね)み妬(ねた)み合ひたり
012:達(1〜27)
(星野ぐりこ)真夜中にカロリー達が押し寄せて体重計がとっても怖い
(ひいらぎ) すれ違う恋人達に幻想を重ねて見てる曇りのち晴れ
(はこべ)床の間にひとふで達磨の軸をかけ 向き合ってみる雨の日の午後
佐藤紀子) 背に重き太郎なるべしとびきりに泳ぎ達者な亀ではあるが(浦島太郎物語)
013:カタカナ(1〜25)
(蓮野 唯)友達をトモダチと書く切なさよカタカナ程度に軽い関係
(みずき) 温暖に没する島よ 地球儀を回せば美(は)しきカタカナの海
(かりやす) カタカナかひらがななのか本人も知らぬ林家ペーさんの「ぺー」
(五十嵐きよみ)カタカナか漢字か区別がつくように力と書くとき力を込める
(梅田啓子)「ニッカウヰスキー」のカタカナ「ヰ」の文字が倒れないかと夜通し看てる