題詠100首選歌集(その4)

 昨日より最高気温が10度下がるというので身構えてみたが、考えてみれば、14℃というのは2月としては暖かい方だ。在庫数が、勝手に決めた規定数(在庫25首以上の題10題)にやっと届いた。


        選歌集・その4


001:笑(123〜148)
(我妻俊樹)憫笑のくちのかたちで死んでいる犬を跨いでゆく橋まつり
(本田あや)帰り道笑った顔の犬をみた 君に電話をすることにした
(わたつみいさな)思いだし笑いをしつつ手帳にはあたし最後の日とだけ書いた
(穂ノ木芽央)彼(か)のひとの微笑写せし素描画(エスキス)に蝶の群れをり 弔ふ朝に
(Makoto.M)ひっそりと笑むということ疚しくて 空をまっすぐ来たる風花...
002:一日(99〜123)
(本田あや) 一日の約半分は深爪の理由について考えている
(わたつみいさな) さそり座の毒がまわってゆくさまに焦がれるだけの一日とする
佐藤紀子)百年を一日ほどに感じつつ太郎うかうか遊び暮らしぬ(浦島太郎物語)
(日向奈央) あなたとの電話で終わる一日は布団の中まであたたかくなる
(若月香子)きっとそこにあるはずだった伝言を挟んだドアの向こうの一日...
003:助(84〜110)
(芳風)僕の手がいつか助けになるようにここには居ない君の手を取る
(穂ノ木芽央)思ひつくかぎりのことばならべかへこぼれた助詞のかなしさおもふ
004:ひだまり(72〜99)
(髭彦)鉢植えの草花かなしひだまりを追ひて移さむ冬の朝は
(ほきいぬ)もう少し汚れて欲しい ひだまりが似合ってしまう君の微笑み
(穂ノ木芽央)手のひらにひだまりうけて黙りこむふたりの呼吸(いき)が吹きだまる 春
(わたつみいさな) ひだまりのかたちを指でなぞったら君のかたちにほとんど似てる
005:調(56〜82)
(風天のぼ) 乳のみごが泣けば脱がせてうらおもて目と手のひらで妻調べおり
(髭彦)調として多摩の流れにさらされし布納めゐしか古人(いにしへびと)は
(中村成志)網膜の震えは止まず一条のルビーレーザーからの調べに
(わたつみいさな) カナシイ の調べがながれくる夜に塩味ポップコーンが湿気る
008:飾(26〜52)
(布川イヅル) 裸足にはもうなれなくて麦帽を草の匂いごと窓辺に飾る
(西野明日香) 飾らない子らのまなこは透き通る湖の色 木立を映す
(井手蜂子)老いてなほ母は雛飾りを仕立てをびなの添わぬ娘を祝ふ
佐藤紀子フェルメールの耳飾りのごと乙姫の両耳たぶに真珠が光る(浦島太郎物語)
009:ふわふわ(27〜51)
(行方祐美)ふわふわとユーフラテスに浮かばんか虫の切手をもらいし夕は
(かりやす) 律儀にも口にすべきかためらひぬ「ふはふはオムレツ」とふメニュー名
(久哲) ふわふわと数多の死者の寄るゆえの骨の清さか京洛の壷
(ろくもじ) 「やさしさ」を「わたあめ」みたいにふくらまし「ふわふわ」のまま「君」にあげたい
014:煮(1〜26)
(みずき) 煮崩れし魚の目ひかる空間は涙の海か とほき潮騒
(小早川忠義)この眼なる水晶体も取り外し煮沸消毒したき夜なり
(星野ぐりこ) 憧れを煮詰めすぎたら恋になりちょっと後悔しているのです
(梅田啓子) ケータイに送られ来たる死をわきに置きてぬめれる里芋を煮る
015:型(1〜25)
(鳥羽省三) 「型枠を組めば仕事は半分さ」 左官屋さんは誇るがに言ふ
016:Uターン(1〜25)
(ひじり純子)Uターン戻る勇気はないくせに気持ちはいつも後ろ向いてる
(小早川忠義) 我が為にUターンせしタクシーの扉の開く停まらぬままに
(鳥羽省三) シャッター街はつばくらめのみ新しくUターンせし吾を斬るがに飛べり
(わだたかし)Uターンラッシュのような乗車率十割超えの恋にかけこむ