題詠100首選歌集(その6)

 昨日で完走、これからは選歌に専念するしかない。今日は久々の雨。うすら寒い一日になりそうだ。


     選歌集・その6

002:一日(124〜148)
(末松さくや)胃が悪いあなたへグラスいっぱいにそそぐ一日分の優しさ
(羽根弥生)半開きのままの闇夜の貝のごと 輾転として一日(ひとひ)を越えぬ
(橘 みちよ)会ひしことなく歌のみを知るひとの訃報届きぬ一日(ついたち)の月
(磯野カヅオ)緑青をあまねく帯ぶる日々であり 春一番にさらす一日
(片秀)薄着して身軽になった四月一日(わたぬき)に君が嫌いと嘘をつこうか
(みち。)一日の継ぎ目に立っていまここが何小節目であるかを思う
(天野ねい) コーヒーがちょっぴり薄い 一日がとっても長い 貴女がいない
(ezmi)一日の終わり武装を解くように脱ぎ捨てる服の中は空っぽ
003:助(111〜136)
(Makoto.M) 助教授という肩書きが消えし春 花粉のなかをまだ手が届く...
(末松さくや)補助線でがんじがらめになりながら正三角を描かされている
(村木美月) 独占はできないひとの助手席に残り香だけを忘れてしまう
(ゆふ) 自転車の補助輪はづしひとり子は漕ぎ出づるなり春の野原に
ひぐらしひなつ)雪の日に助走は途切れそこからはもう足跡はただの眩しさ
004:ひだまり(100〜126)
(もよん) ひだまりに まどろむ老いた犬の背を なでつつ吾も老いたりと思う
松木秀)しあわせの化身となりて黒猫の転がりまわるひだまりがある...
(水口涼子)ベランダにいちごの苗を植えてみるあなたがいないひだまりの中
(橘 みちよ) われを見るひとみな瞳やさしかりき幼年期とはひだまりの舟
(村木美月)ひだまりで休んで充電しています それから君に電話をします
(振戸りく) ひだまりにおかれたものはおしなべてしあわせそうな色をしている
(暮夜 宴) 耳もとで君がケサランパサランって囁くような冬のひだまり
ひぐらしひなつ)ひだまりに足をそろえて笹舟のかたちに結ぶ答案用紙
005:調(83〜109)
(富田林薫)聞こえたらやさしい歌は短調にかわる気がして耳をふさいだ
(美久月 陽)旋律があなたの耳を塞がせる調律されないピアノのわたし
(惠無)名前とか調べなくてもその花がそこに咲くのをちゃんと知ってる
(みつき)調査書という封印の内側で 乙女の恋は したたかに咲く
008:飾(53〜77)
(ふみまろ)飾りなどいらないけれど飾るなら枯れても残る矢車草を
(斉藤そよ) 適当な虚飾も持たぬ左手にすこやかすぎるハンドパペット 
(中村成志) 寝台のサイドランプをつけたまま彼女は黒い髪飾り解く
ひぐらしひなつ)ボールペンのキャップの味を確かめる装飾音符書き足しながら
(みつき) 飾り櫛 君が選びし記憶ごと 割りて燃やさん 嫁ぐ日の朝 
(ME1)繕った見栄がにじんだ紫紺地の哀しみ剥がす粉飾の跡
012:達(28〜52)
ウクレレクロスワードパズルの5文字空いたまま君からのチョコ配達されず
(西野明日香) この上に雪降り積もれ凍えたし不達で戻るメールみつめて
(新井蜜)蘇りもう寝られないジュリエット達と遊んだ運河の記憶
(都季)「また今日も眠れなかったの?」新聞の配達される音に言われて
ひぐらしひなつ) 陽射しごと連れ去りながら配達を終えて路地へと消える自転車
(海里) 配達の音が鳴るときドア越しに夜と朝とが分離してゆく
013:カタカナ(26〜50)
(わだたかし) 駅前の小さい飲み屋「鳥吉」がカタカナ表記になった夏の日
松木秀)カタカナで書かれたような体型の若き女が叫ぶ公園...
(髭彦)カタカナでイーハトーヴとふるさとに名づけ生きたる詩人のありき
(新井蜜) 月曜のビルの谷間を降ってくるカタカナだけで書かれた手紙
014:煮(27〜51)
(はこべ) 思うこと叶わずひとりひたすらに ジャムを煮ている土曜日の午後
(五十嵐きよみ)大鍋の野菜とろとろ煮崩れてゆくそばで読むロマンス文庫
022:職(1〜26)
(小早川忠義)夢といふ逃げ口上も言へぬまま職に猿轡を噛まされぬ
(ひいらぎ)転職をしたらいいよと煙草吸う背中にそっと手のひら当てる
ウクレレ) 定年ののちの国勢調査なら職業欄に「歌人」と記す
佐藤紀子)「職業は漁師」でありし日は遠く浦島太郎はニートの暮らし(浦島太郎物語)
(柴田匡志) 就職の祝いと受けし梅の苗倒れてもなお枝葉を伸ばす
023:シャツ(1〜26)
(星野ぐりこ) 裏返しされたシャツからさりげなく彼の気配が主張する朝
(かりやす)Tシャツのうしろに「夢魔」とある少女逢ふ魔が時をついてゆきたし