題詠100首選歌集(その8)

 ひさびさに終日出掛けたら、少々くたびれた。お歳のせいだとは思いたくないが・・・。


      選歌集・その8


001:笑(174〜199)
ひぐらしひなつ) 目があって笑う暫しの眩しさの春紫苑かきわける潮風
(夏実麦太朗)オヤジギャグ時には受けることもある娘二人がちょっと笑った
(ぷよよん)忘れてた笑顔をむかえに行ってくる春待草の膨らむ場所に
002:一日(149〜173)
(あみー) いいことを言おうとばかり考えてまた一日が磨り減っていく
(たかし)紙袋一日雨に濡れ続けやがて崩れる春のカタチに
(太田ハマル)もうきみが見えなくなった改札できびす返して終わる一日
003:助(137〜161)
(羽根弥生) 満開の桜の下の助産院の硝子扉に触るれば温(ぬく)し
(太田ハマル) 似たような名詞を選ぶ君といて助詞の好みの違うのを知る
(ワンコ山田) 飲み干した泡立つ助剤頬を染め解放少し許すひととき
004:ひだまり(127〜152)
(みち。) ひだまりのような声帯ゆるされる位置を知ってるひとの言い訳
(佐東ゆゆ) ひだまりのしじまをくれた君といて貴方はいない絵のない絵本
(星川郁乃)家具ときみが運び出された早春の部屋にひだまりだけが残った
(水風抱月) 雪に落ち蕾開かぬ花の芽を僕のこころのひだまりに置く
005:調(110〜136)
(もよん) 調味料 並んだ棚を眺めてる 今日のメニューは まだきまらない
(月原真幸) 空調の弱いまひるま カフェインの切れた体を持て余してる
(太田ハマル) 貝殻の海につながる音を聞くああ波さえも冬の調律
007:ランチ(81〜106)
ひぐらしひなつ)良妻の振りにも飽きて八階の窓から投げるランチボックス
伊藤真也) 抜いてきた親知らずの穴 立ち食いの月見うどんで遅めのランチ  
(青野ことり) 休日のブランチに似ていまここにいることだけを愉しんでいる
008:飾(78〜102)
(ほたる)お迎えの来ない夕暮れいつまでもシロツメクサで編む首飾り
(佐東ゆゆ)この恋を虚飾にしてと乞うたびにまるみをおびてゆくものがたり
(わたつみいさな) あなたから秘密を打ち明けられるようひだりの耳を飾る小春日
(村木美月) 飾られた遺影にそっと手を合わせ過ぎし日思う春はもうすぐ
010:街(53〜80)
ひぐらしひなつ)花街に花なくかつて花たりしひとの曲がった影ゆくばかり
(ME1) 街灯は聳え しばれる夜を灯す ほの白く闇溶かしてしじま
(夏実麦太朗)みぞれなど降りだしそうな問屋街スプーンフォーク静かに光る
(わたつみいさな)うらみごとばかりの街をあたらしい一眼レフで丁寧に撮る
011:嫉妬(51〜75)
ひぐらしひなつ)ぎこちなく少年くさい嫉妬にも飽きてしずかな秋を束ねる
(わたつみいさな) うつくしくないこと爪をかむしぐさ嫉妬してないふりのさよなら
(音波)それぞれに嫉妬のあって六月のブーケは空をふっと横切る
016:Uターン(26〜53)
(マトイテイ)飛び出して三日もしたらUターン扉の鍵はいつものところ
(都季)Uターンラッシュは未だ他人事で自立の意味を考えている