題詠100首選歌集(その9)

 今日の東京の最高気温は4℃とか。雪も降った。もっとも落ちると同時に溶けてしまって、ちっとも積もらなかった。
 今日の選歌のうち「038:→」、作るときにも難渋したが、選歌でもその物差しが見つからなくて困惑した。皆様読み方に苦労されているようだが、読み方にどこまで工夫が許されるのか。また読み方の判らないものもある。毎度勝手な自信のない選歌だが、38の選歌は常にも増して自信がないというのが正直なところだ。


             選歌集・その9

006:水玉(111〜136)
(詠時)知らぬ事無いはずなのに水玉のドレスの君に少し戸惑う
(酒井景二朗) 安つぽいメンコに刷られた水玉の版ずれにさへ未來があつた
(emi) アルバムの真ん中にいる弟は水玉のシャツに着替えたばかり
(水風抱月)浴槽へ落とす嘆きを混ぜ合わせ指で繋げた壁の水玉
009:ふわふわ(78〜102)
(わたつみいさな)ふわふわのあしもとばかり気をとられこんなところでまいごの僕ら
(ほたる)ふわふわの綿毛を飛ばすくちびるはほんの一瞬無防備になる
(日向弥佳) ふわふわのマシュマロのせてあたためたココアを君のとなりで飲もう
013:カタカナ(51〜75)
(原田 町)カタカナの旧姓にて遠き日の年金記録いま届きたり
(わたつみいさな) やわらかなあなたのむねに包まれてあいしているとカタカナで泣く
(天国ななお)カタカナでよびかけられたカタカナでこたえてあげた ユウヒガキレイ
(ひわ) 夕暮れを呼び込むために蝉たちはカナカナカナとカタカナで鳴く
017:解(26〜55)
(梅田啓子) なめくぢの這ひたるあとの光りをり友と和解し夜道をゆけば
(行方祐美)解き衣の乱れ風吹く夜のように二月はわれを嘲笑うなり
(新井蜜)戦争を知らない僕ら火にくべる解法のない試験問題
(久哲)水色の結び目を解く夏肌に仏法僧の夜鳴くところ
(水口涼子)潮騒の遠く聞こえるこの部屋でふたり離れて数独を解く
018:格差(26〜52)
(月下燕)もうずっとお探しですね「ほんとうの自分」ご希望の格差をどうぞ
(梅田啓子)髪結ひの亭主も言はば〈格差婚〉サンダルひつかけパチンコにゆく
(五十嵐きよみ)世代間格差を嘆く恋人のくちびるに差し入れるポッキー
031:てっぺん(1〜25)
(みずき)山峡を谺する声ほととぎす「てつぺんかけたか」我、繭蘢り
032:世界(1〜25)
(小早川忠義)世界とは丸か四角か三角か形無きものに挑む日もあり
松木秀)すこしだけ世界を知った少年の瞳いよいよまぶしくなりぬ
(ぽたぽん)マスコミに「夢は世界」と言い放ちピッチャーがまたアメリカに発つ
(みつき) 異世界の人が我が家に住んでます もう何年も同居してます
(佐東ゆゆ)「若いっていいな」と語る 定年の世界史教師が世界を語る
033:冠(1〜26)
(船坂圭之介)むらさきの冠一斉に向かしめて桔梗自生のままいさぎよし
(ひいらぎ) 折り紙で作った冠乗せていた頃のようには泣けなくなった
(夏実麦太朗)気がつけば娘二人の名の中に草冠が被さっており
(梅田啓子) あらくさのなかに群れ咲くまんじゆしやげ花冠も蕊もくるくる巻ける
034:序(1〜25)
(みずき)秩序なき街に降りくる雪乱れ人型白く消ゆる たまゆら
(梅田啓子)序破急の急は短く烈しくも 生き切りし人の短さおもふ
038:→(1〜25)
(船坂圭之介)対向車無きここち良さ→(標識)のままに進めばやがて洞爺湖
jonny) →の先に「明日」と書いてある角を曲がって着いたのがココ
(みずき) →(標識)を向けしあしたの海岸は春愁美(は)しき夢を咲かすか
うたまろ)行くあてもなくたどりつく交差点 →か←か↑かそれとも?
(ぽたぽん) 「も→イヤだ」で始まるメールの本文はハートマークに満たされており