題詠100首選歌集(その13)

          選歌集・その13



013:カタカナ(76〜100)
(英田柚有子)カタカナでさよならを言う 好かれないまま今のままいなくなりたい
(七五三ひな) 緊張感悟られぬよに読み上げるガイドブックのカタカナ英語
(暮夜 宴) ひらがなで喋るあたしを追い越して真夏の雨はカタカナで降る
(惠無) ムートンのブーツの爪先擦り切れてカタカナだらけのページめくった
026:コンビニ(26〜53)
(夏実麦太朗)コンビニの居心地の良さ耐え難く表に出れば北西の風
(かりやす) 履歴書のコピー取り忘れコンビニのレシートを見て電話をかけぬ
(只野ハル)コンビニで 買ったアイスを 食べようと 歩き出したら 通り雨降る
027:既(26〜50)
(みつき)君はまた既成事実を味方にし ストローを噛む我に詰め寄る
(わだたかし)いつだって既製の愛に満たされて幸せそうなテレビの世界
(佐東ゆゆ)すきなひとはきらいなひとと告げながら囁く白の既視感まみれ
(木村比呂) 図書館のさざめき遠くなり既に眠ったきみに宿る潮騒
(日向弥佳)既製品のようにはできず何度でもこねくりまわしているチョコケーキ
(森山あかり) 始まりは既視感(デジャヴ)だったね懐かしい匂いする君ぼくの恋人
028:透明(26〜51)
(わだたかし)透明がいつか馴染んでくるように目立たないよう笑っています
(マトイテイ)透明な存在感を手に入れて僕らはやっと二人になれた
(行方祐美)透明となるために年を重ねおり咲くということ梅もわたしも
029:くしゃくしゃ(27〜51)
(行方祐美)くしゃくしゃのくしゃみ塗れの昨日今日そろそろ母は春の獣
(ジテンふみお)くしゃくしゃで文字の薄れたレシートにケーキセットのブレンドふたつ
(伊藤夏人) くしゃくしゃな白きハンケチ今日だけは正方形にたたまれており
030:牛(26〜50)
(梅田啓子)ぺろり舐め山本昌の投げる球みるや牛乳飲みたくなりぬ
(柚木 良)それぞれのタグを説明されるときクローン牛は同時に笑う
041:越(1〜26)
(船坂圭之介)水鏡の眸は澄み居たり 弱者吾の越す峠路に花霏々と降れ
(星野ぐりこ)引っ越しで置いていかれたくますけのプラスチックの目にほら、夕陽
043:係(1〜25)
(鳥羽省三)「係恋」とは「忘れ得ぬ情」 妻厭ふ斎藤茂吉に何の係恋
(夏実麦太朗) 引力と遠心力の関係を布団の中で考えている
(日向弥佳)今日からは君をほっとく係だと任命されて途方にくれてる
044:わさび(1〜26)
(鳥羽省三) 山峡(やまかひ)の水辺に生へる草の葉に顔を寄すればわさびの香のす
(みずき)わさびの香くらりと沁みる眼間(まなかひ)へ初冬の光いつそ明るし
(小早川忠義) わさび沢浄蓮の滝尋め行かむ駆け引きのなく汝の手熱し
佐藤紀子) 浦島が五日目の夜の夢に見るわさび自生の水清き村(浦島太郎物語)
(夏実麦太朗)新商品開発プロジェクトの席でチョコとわさびが比べられてる
(梅田啓子)控へめなあなたが時にさびしくて握りにわさびをたつぷりつける
(ひいらぎ) 大人にはなりきれなくてわさびとか嫌いなままでキッチンに立つ
045:幕(1〜25)
(小早川忠義)文字薄き鐚銭ぽつりと飾られて室町幕府の力無きこと
(穴井苑子)くす玉が割れたら垂れ幕あらわれるしくみに今年も拍手をおくる
(八朔) 気がつけばキミのそばには煙幕をはるヤツがいて視界が悪い 
(庭鳥)幕間にオケピ覗けば金管がものも言わずに見つめ返した
(日向弥佳) 終幕を待ち続けている劇場でハッピーエンドを期待している