題詠100首選歌集(その15)

庭の杏もかなり色づいた。郵便を出しにポストまで行ったら、すっかり春の陽気だ。彼岸も近い。


     選歌集・その15


001:笑(225〜249)
(春待)「笑えれば生きてる証拠」と言う母の目だけは泣いていた誕生日
(流水) 微笑みで気持ちを隠す癖があるマトリューシカの奥の奥底
(須藤歩実) コットンに浸したファンケル塗るときはそっと笑った顔をしてみる
003:助(188〜212)
(吹原あやめ) 助手席に種を蒔こうか さみしさの花が咲くまで指をからめた
(ゆず)補助なしでさかあがりしたとき見えた世界のように君が手を振る
(春待) 温もりが覚めないようにコート置く君が降りたあとの助手席
(こうめ)助手席に限られたキス 悲しみは夜景となりて君が背照らす
004:ひだまり(178〜203)
(駒沢直) まぼろしのおひるね 草の染みつけて白いスカート汚すひだまり
(花夢)けがれなきひだまりをその野良猫はためらいもなく踏み付けている
(チッピッピ) 背を丸めそっと愛でてた福寿草 ひだまりの庭 父はもういぬ
(新野みどり) ひだまりで眠った猫に憧れて昼寝してみる日曜の午後
(宮田ふゆこ) マフラーを片付けたなら鎖骨にも春のひだまり乗せて歩こう
(加藤サイ) 美術準備室にひだまり閉じこめて肺に満ちてく石膏のしろ
(流水)肉球のひとつひとつを暖めてひだまり猫をやさしく包む
006:水玉(162〜186)
(草蜉蝣)水玉のハンカチーフに包まれて玉子サンドはこぼれはじめる
(春待) 水玉のブックカバーで隠してた太宰は今も本棚の奥
(チッピッピ)宿に着き水玉急須で茶を入れる二人の沈黙断ち切るように
(萩 はるか)さくら色に白の水玉ちりばめて春抱きしめる控えめネイル
009:ふわふわ(128〜152)
(たかし) 高速を見下ろすビルの陰にいて春の羊はふわふわ泳ぐ
(一夜)ピリピリと張り詰めていた日々を終え ふわふわ過ごす受験日の夜
(萩 はるか) ふわふわと年にひとりは恋人をとりかえてゆく罪の香水
011:嫉妬(102〜126)
(こすぎ) ピアスから嫉妬がもれて秋雨が頬を突き刺す北池袋
(惠無)抱っこしてと言わんばかりの前足に嫉妬している夕焼け小焼け
(畠山拓郎)もしかして嫉妬じゃないかと思いつつ自意識過剰とコーヒーを飲む
016:Uターン(79〜104)
(七五三ひな)Uターンラッシュは無縁で生きてきたフリーランスの吾の半生
(秋月あまね)「胎内へUターン」の記事よく見れば新潟県の企業広告
(笹本奈緒) 実家から私の箸が消えていた Uターンする故郷はありや
(詠時) 四次元の時間軸には逆らえぬUターンしてまた迷い道
046:常識(1〜25)
jonny)常識に振り回された一日の僕を壊してみる夜がある
佐藤紀子) 常識をしばし忘れて遊ぶべしおとぎ話のバーチャル・パレス(浦島太郎物語)
(ぽたぽん)「そのくらい常識だよ」が口癖の上司が上司に叱られている
047:警(1〜25)
(鳥羽省三) いつ来ても<警ら中>との札下げて警官不在の村の交番
(船坂圭之介)警邏するをとこふたりの影淡く月はやうやく街路を照らす
佐藤紀子)乙姫の警告忘れ開けられて箱はそのまま浜に残れり(浦島太郎物語)
(みつき)警告の連ねられたる箱を手に 君は悠々煙吐き出す
048:逢(1〜25)
jonny)ひとときの逢瀬楽しむあいだにも人は生まれて人は死にゆく
(アンタレス)親の目を気にして逢瀬重ねたる君逝きたれば彼岸待ち居り
(小早川忠義)逢うことのときめきも失せ棲むなれば互ひに相手を宿六と呼ぶ