題詠100首選歌集(その17)

 昨日墓参に出掛けたのだが、20℃を越す陽気だった。今日はそれよりも大分涼しいようだが、それでも春の陽気だ。毎年同じセリフだが、「暑さ寒さも彼岸まで」とは良くぞ言ったものだ。

  
            選歌集・その17


002:一日(200〜224)
(チッピッピ)笑顔さえ昨日のものとちがうはず 日一日と育つ我が子よ
(加藤サイ)つり革を握る力で一日の重みに気づいた 知らん顔した
野州) たどり着く場所とも見えず夏雲の湧き立つ見つつ一日歩く
007:ランチ(161〜185)
(一夜)気晴らしに外国映画真似てみる ランチョンマット並べた夕餉
(チッピッピ) 彼の名が出てもポーカーフェイスして ランチタイムは恋の鞘当て
(拓哉人形)「一般によくあること」で片付けてしまいたい日に食うAランチ
(宮田ふゆこ)飛び出した言葉を追ってはらはらとランチョンマットに落ちるパンくず
(萩 はるか)ブランチにトマトソースを煮込んでる化粧水だけつけた素肌で
(流水)空っぽの席に思い出座らせて日替わりランチを頬張っている
(あみー)山頂に旗を立てたらそれはもうお子様ランチみたいな地球
012:達(106〜133)
(詠時)操りの糸を解かれて眠りたる人形達が居並ぶ終電
(太田ハマル) 希望という名前を付けた鳥達を小さい順に空に放した
(花夢)幸運を手放したくていつも雨を連れ歩いてる友達と逢う
(南 葦太)毎日が僕達の日々だった夏 始まりを待つ夢の結末
(新野みどり) 速達で手紙を君に送りたい暖かくなる言葉並べて
(穂ノ木芽央)発達中の低気圧が今日通過するどしや降りなのはきつと僕だけ
013:カタカナ(101〜126)
(藤野唯)ひとりでもかまわないんだ ほそぼそとカタカナでそっと歌っていよう
(ほたる) カタカナでまばたきもせず告げられる機械仕掛けのコトバのように
(emi)少年は自ら生きる空間をカタカナ世界に見出してゆく
(花夢) カタカナの呪文みたいなことを言う心理カウンセラーの友達
(はづき生)カタカナノカタカタカタイカナモジノカンカクタシカメカクコトタノシ
(斉藤そよ) 銀色の十四夜月 カタカナで書いた手紙のような夜です 
014:煮(102〜127)
(TIARA)煮詰まらぬ関係にあり あのひとの泣き顔をまだ僕は知らない
(ほたる)煮くずした桃の味見は指でする舌先で掬うぬるい憂鬱
(花夢)夕飯の鯖の味噌煮がわけもなく罵られては煮くずれてゆく
(振戸りく) 上質な煮干しを水に放ったら銀のかけらが泳ぎはじめる
017:解(81〜105)
(花夢) 理解したふりをしながらガーネット色に煌めく憎しみを持つ
(チッピッピ)暗号のようなメールの謎解けず返事は今日も天気から書く
石畑由紀子) 解くことが答えではない ポケットの中でちりりと燃える知恵の輪
(富田林薫)叶わないのぞみを抱いて曇り空に打ち解けることなくたたまれる日傘
023:シャツ(52〜76)
(ME1)嫌らしいくらいの白きTシャツを染め上げて影 疎ましさ踏む
(月下燕)脱ぎ捨てたシャツのあなたのぬくもりの抱きしめてなお届かない朝
(髭彦) 学校にいまだ棲みゐて赤シャツも野だいこなどもしぶとかりけり
(わたつみいさな)君だけというわけじゃなし春がきて洗いざらしのシャツに着替える
(西野明日香)よれよれのシャツの形の心して銀の指輪を磨く一日
(都季) 白いシャツばかり着てたね 残像がまぶたの裏にまだ残ってる
(五十嵐きよみ)黄のシャツは勝者のあかしTVでは連日ツールドフランスばかり
(藤野唯) 「おいで」って言って あなたに触れていないほうの手でシャツのボタンを外す
(詠時)君が手を奇術の鳩は飛びいだしYシャツ揺れる四月の青空
033:冠(27〜52)
(木村比呂)影を押し西へ傾く稜線の夕陽はべスパにあげる冠
(行方祐美)青いほど石蓴のスープは匂い立つ春の冠光れよここに
(井手蜂子)僕の編むいばらの冠(かむり)をファッションで着けるあなたをゆるしきれない
(水口涼子) 冠の親王雛を「おやだま」と読む子になごむ春のデパート
(髭彦)冠を被ることなき人生を求め生き来し定年迎ふ
034:序(26〜51)
(ジテンふみお)自転車のカゴに溢れるほど春の序章をどうぞお隣さんへ
(森山あかり)終章の鍵は序章にあるらしい人生という読み物もまた
(さかいたつろう) 教室は魔女の序列にしたがってちいさいものから並べられてる
055:式(1〜25)
松木秀)春風に甘納豆も微笑んで卒業式に桜雨(さくらあめ)降る
(みずき)格式の違ひを思へば切なくて別れ霜とふ甃(いし)を踏みたる
うたまろ)花びらの色を染め抜く式神が 夢とうつつをまだらに混ぜる
(星野ぐりこ) 公式に認められない恋人を冷めた紅茶とずっと待ってる
(梅田啓子)独り身の友は口元きつく閉ぢ喪主の座にをり葬式の朝