題詠100首選歌集(その19)

       選歌集・その19



005:調(188〜213)
(やや)ゆうやけと夜が交錯する空はどっちつかずの心の調べ
(鳥獲)調べたいこともないのに研究をさせられている程度の自由
(日高裕生)裏切りが許されている五月まで静かに増えていく調味料
(七十路ばば独り言)笙(しょう)の音の雅な調べひそやかに小糠雨降る夜桜の路
(やすたけまり) サザエさんのテーマソングを短調にうつして夕陽色のハモニカ
008:飾(153〜177)
(新野みどり) 職場でも右手を指輪で飾ってた君への想いを忘れぬために
(宮田ふゆこ) 神様が忘れないようお祈りを暗号にして爪に飾るの
(こうめ)抱きあいし日を指折りに数えあう別れの記憶飾るがごとに
(あみー) 飾らない笑顔がいいと育てられ未だに飾り方を知らない
011:嫉妬(127〜152)
(橘 みちよ) 犬はねこに猫はひばりに嫉妬せむ蝋梅の香にむせぶ夕べは
(松原なぎ)するすると「嫉妬」という字書いているさらさら昨日のことなど忘れ
(萩 はるか) 飽きてきた嫉妬することされること時代遅れの口紅を差す
020:貧(76〜100)
(花夢)プラチナの婚約指輪を今晩の貧しい食事に混ぜて煮込んだ
(祢莉)清貧とひとりごちつつ朝食の残りの味噌汁温めている
野州)貧しさが勲章だつた穴の空いたズックでどこまでも歩いてゆけた
026:コンビニ(54〜78)
(暮夜 宴) 欲しいものなんてなかったコンビニで「ありがとう」だけもらって帰る
(音波)コンビニが空き地になった四つ角でフェンスの鍵を鳴らす海風
(詠時)コンビニに四季の移ろい感じては都会のねずみの寂しさ想う
027:既(51〜76)
(風天のぼ)おおよそは既にできてるような春 私らしくもない風にのる
(髭彦) 吾が胸の片隅占むる石灰の既往の病今に伝ふる
(月下燕) 安らかに春が来るのを待っている失う覚悟は既に済ませた
(磯野カヅオ)音立てて崩れし塔の二つ三つ 既読の山に春は来にけり
036:意図(26〜51)
(庭鳥)意図せずに君と出会いし昨日より再会する日意図して探す
(わだたかし)意図しない始まりかたの恋だから終わりもそんなもんだと思う
(井手蜂子)唐突な別れ話の意図だってほぐしてベッドへ繋いであげる
(新井蜜)春風に溶けだしていく野や森の意図したことも意図せぬことも
(詩月めぐ)意図しない方へ方へと転がって取り残された想いがひとつ
(ふみまろ) 見抜かれる意図を仕組んだ歌だから戸惑うふりはほどほどにする
(ことり) スーパーの裏口あたりに夕暮れが意図したようにまちぶせている
037:藤(26〜50)
(はこべ)亡きひとが過ぎにし春に我がやどに 植えし藤波今朝咲きにけり
(minto)階段に立てば響きぬ葛藤も三重奏も幻のごと
ひぐらしひなつ)陽に傾ぐ冬の藤棚 訥々と歩けば坂は不意に途切れる
038:→(26〜51)
(梅田啓子)暗黙の→(やじるし)のごとき束縛は母よりわれに我より子へと
(庭鳥)そっけなく→引いて道示す手書きの地図は青色インク
065:選挙(1〜25)
(アンタレス)丸き背をさらに丸めて老い二人何を希むか選挙に急ぐ
(みずき)選挙カー過ぎて黄塵なほ重く十日の菊の散りて明日なる
(minto)マーラーの曲を消しつつ選挙カー通り過ぎたり音量上げて