題詠100首選歌集(その20)

 冬に逆戻りしたような寒い雨の1日だった。そんな日に限って、出掛ける用事ができる。帰ってパソコンに向かっていても薄ら寒い。「ひだまり」とはほど遠いことだ。


    選歌集・その20


004:ひだまり(204〜228) 
(ゆり) 目を瞑りひだまりの中とけてゆく体は消えてわたしは自由!
(こおなまぬがな)ひだまりが4時のすきまに吸い込まれさみしいだとかいいたくはない
(須藤歩実)二分咲きの桜の横に園児らを並ばせながらひだまりを踏む
(こゆり) かけあしで上がる階段ひだまりに気づかなかったおどり場の春
(yuko)太陽が鉛色した枯れ草を照らし続ける午後のひだまり
028:透明(52〜76)
(髭彦) 行く末の不透明なる時代にぞ吾ら去りゆき子らは生き行く
ひぐらしひなつ) 透明になるまで混ぜて六月の実験室でわたしを殺す
(原田 町)透明度ワースト5位の沼なれど翡翠がいて鶯も鳴く
039:広(26〜51)
(わだたかし) 放課後の広場で無くした夢だけど今なら探せそうな気がする
(行方祐美) 広東料理を眠くなるほど食べる夜の香港の街どこもが光
(柚木 良) 広さとは孤独の異称 三月の真水で氷をつくり置きする
(チッピッピ)亡くなった父の形見を分け合えば箪笥の広い隙間が哀し
(水口涼子)広場には馬蹄隊形とりながらカブスカウトが集う日曜
040:すみれ(27〜52)
(マトイテイ)すみれとは本名ですかと問う僕に謎の微笑み返す新宿
陸王) ともだちのままいたいからわがままを告げられぬまますみれ花咲く
ひぐらしひなつ) すみれとして過ごすにはやや殺伐とした午後であり 恋にはならず
(チッピッピ) 暮れ残る空はすみれのグラデーション 魔に出逢うまであともう少し
060:引退(1〜25)
(穴井苑子) 盛りあがらないよりいいに決まってる 引退試合 閉店セール
(日向弥佳)悪友が引退をした夏チャペル響き笑顔でブーケを投げる
061:ピンク(1〜25)
(みずき) 清純な白あはく染めピンクとふ夢に最も近きその色
(夏実麦太朗)消え去ったピンクレディーは単純な画像処理にてまた現れる
(ぽたぽん) 期待してポストを開ける我のことピンクチラシがはらりと嗤う
062:坂(1〜25)
(みずき) 雨多き那覇の坂道ぬめりたる樹海にひそむ春の羞(やさ)しも
(船坂圭之介)夕ざかる黄楊の垣根の続く坂 負の迷路めく歩をば早めむ
佐藤紀子) 坂道を曲がれば前に広がれり何も知らぬと言ふごとき海(浦島太郎物語)
(梅田啓子)二の腕のみづみづとして若き母 坂の上から子を呼びてをり
(八朔) 逢坂は爪先あがりわたくしの色づくものが喘いでのぼる 
063:ゆらり(1〜25)
(みずき)急くほどにゆらり時間の立ちどまる 夢狂ほしき冬の逢ふ瀬は
(船坂圭之介)浴槽の底よりあがる火のごとき瞋恚ゆらりとわが背を揺らす
(小早川忠義)ガス台の炎ゆらりと立ち上がるしもべの如く真青なる貌
佐藤紀子)海底の風に吹かれてゐるごとくゆうらりゆらり昆布が靡く(浦島太郎物語)
(みつき)蜃気楼ゆらりゆらめくその先へ行けば君にも会える気がする
064:宮(1〜25)
(船坂圭之介)ふゆ一夜 惑星直列なせるがに津守の宮に音消えて在り
佐藤紀子)海底の竜宮城の輝きか日没の前の海の金色(浦島太郎物語)
(ジテンふみお)宮殿の衛兵に詠む時間あり「バッキンガム」を初句に用いて
066:角(1〜25)
(船坂圭之介)虚無僧のわれかも知れぬ影を追ひ月粛々の街角を行く
(マトイテイ)街角で風を含んだスカートは僕との記憶そっと隠した
(minto) 牧童の角笛響きアルプスの山に木霊す草原は夏