カルデロンさん一家の国外退去

 例によって、某紙に投稿してボツになった原稿である。


      一家に春は来るはず

 
 比国籍のカルデロンさん一家の扱いは、不法入国の両親だけ退去させるということに決まったようだ。法律を厳しく運用するという前提に立てば、今回の結論は穏当なものだと言えるのかもしれないが、もう一歩踏み込んだ結論は出せないものか。
 不法入国に厳しくということは判らないではないが、それを見逃したという意味では、入管当局にも一端の責任はある。カルデロンさん一家は、日本社会に溶け込み、長年にわたって平穏無事な生活を送って来た我が国の市民だ。民法には取得時効の制度もあり、犯罪者にすら時効制度がある。入国の経緯の如何にかかわらず、長年の生活実績を尊重して在留を認めるという姿勢はとれないものだろうか。入国管理制度のあり方についてはさまざまな意見があり得るところだろうが、今回のケースに関する限り、当局の姿勢次第では裁量の余地のある話だと思う。
 幸い、出国までには若干の時間的余裕がある。法務大臣の再考を願うとともに、最高責任者たる麻生総理の英断を期待したい。そのことによって、少なくとも3人の人々が幸せになり、彼らの上に春が訪れるのだ。
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 長さの制約もあり、投稿したのは以上なのだが、多少補足したい。
 「秩序を守る」ということは大事なことだとは思うが、現在の入管制度の運用は、秩序や制度にこだわる余り、個々の市民の「幸せ」を軽視しているような気がしてならない。それに、「人道主義」を振りかざすまでもなく、外国人労働者の受入れは、我が国自体にとっても必要なことだと思う。彼らに働いて貰い、稼いで貰い、税金を払って貰うことは、少子高齢化を迎えた我が国にとって、長い目で見れば必要不可欠なことだと思う。
 関係者は、今回の扱いが前例となることを恐れているのかも知れないが、前例になっても構わないと私は思っているし、むしろ更に徹底させて、いわゆる不法滞在外国人の在留を、原則的に合法化するような措置が執られるべきだとも思っている。そうすることによって、闇に隠れる外国人が減少し、外国人犯罪の減少にもつながるような気がしている。もちろん、ある程度の歯止めは必要だろうが、それはあくまでも「歯止め」という性格に限定すべきではないか。
 そのような大所高所論は、当面のカルデロンさん一家の扱いには間に合わないかも知れないが、そのようなことも念頭に置きつつ、とりあえず弾力的な措置は講じられないものだろうか。「総理の英断」があれば、内閣の支持率向上にも寄与するのではないかとも思うし、ひょっとしてそのような政治的配慮から、今後の「総理の英断」が関係者のシナリオの中に既に入っているのではないか――というはかない期待も抱いているところだ。