題詠100首選歌集(その21)

           選歌集・その21


003:助(213〜237)
(沼尻つた子)「助けて」が「ありがとう」より先に載る語学テキストのページざらつく
(泉)飛ぶことに憧れゐるは吾が生を助走の内に終ふる予感か
(こはく)わかる人だけにわかってほしい日は助詞のすべてを摘みとっておく
(萱野芙蓉) 伸ばされる手が眩しくて助けられ上手になれずしづんでしまふ
009:ふわふわ(153〜178)
(流水) ふわふわと川面に月が漂えば秘密のひとつも漏らしてしまう
(やや)ふわふわの時をかさねて愛という不確かなものスラーでむすぶ
(続木ミオ)ふわふわはたねからそだついつのひか<ほし>をせおってとびたつために
013:カタカナ(127〜152) 
(一夜) イッチョ前カタカナ言葉操りて されど五十路に迷いし我ら
(ことり) 友情ってカタカナみたい本心はひらがなにして呑み込んでいる
(蝉マル)ひらかなでびーると書けば生温いビールは矢張りカタカナがよい
(草蜉蝣)カタカナでアイラブユーと刻まれた手摺の向こうを船は出てゆく
(萱野芙蓉) ナイジェルはカタカナ、わたしはひらがなで雨のはなしをする昼さがり
(宮田ふゆこ) カタカナでサクラと書いた札をさげ六月の雨ひたひたと吸う
016:Uターン(105〜129)
(英田柚有子)ふるさとは揺るがないもの Uターンすると決めても決めなくっても
(岡本雅哉)Uターンしてくる翼を待ちわびて空港になる暗闇の中
(斉藤そよ)はればれとあかるく歩く Uターンしてくる我とすれちがう春 
(太田ハマル) ぶつかるとUターンするミニカーにあいつと同じあだ名をつける
(間遠 浪) Uターンしないで帰る もういない父のベッドの青いひまわり
021:くちばし(76〜100)
(新田瑛) カラスにもなきたいよるはあるけれどあなたのために閉ざすくちばし
(イマイ) くちばしを持つものだけが動いてるくもりの空の駅前広場
伊藤真也)寝息しか聞こえないからくちばしでついばむように触れたくちびる
(秋月あまね)くちばしがばれないやうなマスクして二輌目辺りに座つてゐます
029:くしゃくしゃ(52〜76)
(暮夜 宴) くしゃくしゃな夜に包まりすきまからひしゃげた月をぼんやり見てる
(チッピッピ)くしゃくしゃな気分で歩くオケラ道 後ろ姿はみんな似ている
(西野明日香) くしゃくしゃの紙風船に似た夢に静かに息を吹いてみている
030:牛(51〜75)
(暮夜 宴)闘牛士になったつもりでひるがえす真っ赤なフレアスカートの裾
(チッピッピ) 牛藤(いのこずち)寂しがり屋を道連れにひとり旅する山深き里
ひぐらしひなつ)まだ牛のかたちで吊られ無菌室を夢みるようにまわる肉塊
(西野明日香) まっすぐでなかったことが降りてくる牛蒡ささがく黄昏どきは
(原田 町) 認識票ゆらしつつ牛は黙々と餌を食べおり食わるる日まで
(祢莉)牡牛座で生まれるはずの新しい命を待ちわびている三月
067:フルート(1〜25)
jonny)手に触れたことのないのはフルートとチェロとティンパニそれから天使
(みずき)まぼろしの海を奏づかフルートは静かに恋のとばり降ろしぬ
(夏実麦太朗) フルートのソロの響きの弱ければスポットライトは暗そうに見ゆ
(ジテンふみお) フルートと思しきケース膝に抱き車掌の声をなぞる唇
(ことり) ゆうぐれは銀のフルート さびしくてぱたんと閉じる廊下の小窓
068:秋刀魚(1〜25)
(みずき) 悲しみを燃やして疎し秋刀魚焼く匂ひもろとも貴方を探す
(船坂圭之介) わがかげを月の隠さば秋ふかき夜のしじまに秋刀魚そと焼く
(マトイテイ) この路地に秋刀魚の匂いが漂って僕らは家路を急かされていた
(minto)秋刀魚焼く匂ひ嗅ぎつつ帰る道五時に流れる「家路」聞きつつ
069:隅(1〜25)
松木秀)意味も無く部屋は四角なものなればあらゆる部屋に片隅はある
(船坂圭之介)歳月の隅辺に見ゆる花かげをもつとも恋ふる冬にわが居る
(小早川忠義)持ち歩くかばんの隅の歯ブラシを使はぬままに旅をせぬ日々
(梅田啓子) パソコンを机の隅に押しやりて小さきスペースわが砦とす