題詠100首選歌集(その23)

 <ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して5年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。



             選歌集・その23            


001:笑(249〜274)
(こはく) 笑うしかないのでしょうね暮れてゆく街に吸いこまれる影として
(田丸まひる)けれどまた笑ってしまう泣くなって抱かれるたびに笑ってしまう
(こおなまぬがな) あのひとの笑顔を思いだすためにしなびたポテト食べてみる午後
(こゆり)笑えない恋をいくつも抱えてる時限爆弾みたいなハート
駿河さく)成人用笑みの練習重ねつつガリリと飴を噛みしめる夜
(萱野芙蓉) きみが笑ひ桜が笑ひうつくしいばかりの春を怖いとおもふ
(原 梓)眩しさに疲れたような顔のままひたすら笑んでいた卒業式
010:街(160〜185)
(ぱぴこ)街じゅうに春がきている大げさなあくびの後にため息が出る
(流水) 最初から無視し続けたこの街もミストシャワーの雨は優しい
(ユキヲ)三月の友に背中を押しだされ新たな街へ一歩踏み出す
(遠野アリス) 僕は今日生まれ育った街を出る 振り向くことはしないでおこう
(萱野芙蓉) 市街地は空を侵食し続けるいつか訪れるほろびの日まで
(ゆき) ハイヒール鳴らして駆けるオフィス街われを救える人などなくて
(末松さくや)はじめての中華街にてほんのりと暗い路地まで行けた記念日
011:嫉妬(153〜180)
(こうめ) やすやすとチョコの歯形で局面を変えし手管で嫉妬を知りし
(みち。)部屋中のいろえんぴつが嫉妬するようなあなたのむこうの夜明け
(村本希理子) 嫉妬深き男のやうな藪椿いちりん裁りてしばらくを愛づ
(やや)夜叉のやうな嫉妬のありて女とう罪を思はむ うすあをの空
(ゆき)嫉妬とふ黒き悲しみひたとみる御息所の裔なるわれは
015:型(127〜151)
(A.I) 型紙のとおりに切ったはずなのに服にならない雲がたなびく
(若崎しおり) 二回目に逢っていきなりB型と決めつけられたシーツの隙間
(萱野芙蓉) 異型の葉さはにつけたる枝のうち琥珀に近き樹液あるらむ
(遥遥) 型をとり泥を流して嘘をつめこれで私がまたできあがる
(橘 みちよ) 雪の上(へ)に梅型のこしゆきしもの春ちかづきてまた遠ざかる
019:ノート(101〜126)
(ゆふ)彩(いろ)褪せしお絵かきノートに闘へるおばけの母と怪獣の父
野州)階段を降りて静かな店なりきブルーノート堅き椅子に聴きゐて
(ほたる) 結局は使われぬまま棄てられるノートに貼ったプリクラを剥ぐ
(萱野芙蓉)ジャスミンのミドルノートに移るころ母とのいさかひゆるく治まる
健太郎)"さよなら"とノートに書いて笑ってた別れ 卒業 桜の続き
(村本希理子) 麗しきフットノートの配置あり 老眼少し進みたる目に
(惠無)遠ざかる想いとともにちっぽけな文字を並べたノートを閉じる
020:貧(101〜125)
(こうめ)失ひし時代をうたう 藤村が幻術者と呼ぶ貧を思ひて
(ほたる)蒼白く透き通る胸貧弱な少女のそれはリボンで隠す
(村本希理子)本来の姿はこれか 二年目は貧(とぼ)しらに咲く青ヒヤシンス
(流水)鍋ひとつ貧しき食事済ませればすることもない夜の入口
(松原なぎ)「貧しさに負けた」と言えず向き合えばただのよくある失恋となる
023:シャツ(77〜101)
(ことり)Tシャツの袖ざきざきと切り捨てて驕りの夏をまちわびている
(emi) 皺を伸ばすことのなかったその人のシャツばかりが思い出されて春
(ゆふ) シミのあるコットンシャツを染めあげて桜通りを君と歩かむ
031:てっぺん(51〜75)
(七五三ひな) 古本屋昔の恋も置き並べてっぺんしか見ぬ男(ひと)といた夏
(暮夜 宴)てっぺんに辿り着けない夜きみの背中にゆびで描くジェラシー
(チッピッピ)てっぺんにお団子ひとつ結い上げてうなじ撫でれば一陣の風
(都季)さいごの日ジャングルジムのてっぺんで二人並んで風を待ってた
043:係(26〜51)
(ひいらぎ)悲しみを拭う係になりたくて両手で抱いた小さな身体
(行方祐美)係争はいつも疲れをあたためて雨となすのか今宵どしゃ降り
(ジテンふみお)「エリーゼのために」で対処しきれずに係の者は煙草もみ消す
(伊藤夏人) 何をする係か5分で説明は無理だが僕はあなたの上司
(ふみまろ)区役所の年金係が知っていたように処理する全額免除
045:幕(26〜50)
(わだたかし)幕の内弁当の具を一つずつ確かめながら愛を囁く
(蓮野 唯)幕の内弁当にある練りわさび切なく待つ身の哀しみに似て