題詠100首選歌集(その27)

 昨日バスツァーで南会津へ行って来た。雨にはそれほど降られなかったが、日中の気温10℃から6℃と、えらく肌寒い1日だった。夜帰って来たら東京も寒く、ひさびさに床暖房をつけて過したほどだ。明けて今日も、結構薄ら寒い。そう言えば、昔ゴールデンウィークに炬燵に入ったことがあるのを思い出した。


     
            選歌集・27


017:解(131〜155)
(迦里迦)髪解(ほど)きおどろおどろの夜叉の顔などして遊ぶ閨(ねや)の傍ら
(ゆうごん)黙々と蝕んでゆく牛乳のコップのあとも解きはなて春
(こはく)あらがえと言ってみようか扁平な胸から匂い立つこの解に
(nnote)桜降るアパートのドア閉めるとき解いた指の先から暮れる
(ゆき)髪解く指の間をさらさらと夜の底ひへ落ちる悲しみ
027:既(77〜104)
(中村成志)登録の番号ゆびで呼び起こし既に答の出た答え聴く
(五十嵐きよみ)ありふれた既製服から思いきりはみ出している私はわたし
(イマイ)もう既にわかっているとはいかなくて玄関先であいまいになる
石畑由紀子) 既製服としてあなたの愛を着る 袖は長くて胸は苦しい
028:透明(77〜103)
(花夢)残業が続く夜更けはすこしづつ透明になりながらけだるい
(秋月あまね) 透明な水を飲んでも透明な水は吐けないわたしは不純
(こうめ)フラスコが透明になる水底で白衣着る手が触れた放課後
(虫武一俊) 街を行く背中に額に透明なニートの印がたぶん出ている
029:くしゃくしゃ(77〜102)
(萱野芙蓉) 手のなかでくしやくしやにする悪酔ひをしさうな手紙やさしい文字を
(イマイ)不採用と書かれた紙をくしゃくしゃに丸めないまま窓を見ている
(五十嵐きよみ)くしゃくしゃにしたりされたりした後に互いの姿を見て笑い合う
(流水)新聞をくしゃくしゃにして読む癖をもう叱られぬ暮らしが続く
(虫武一俊) 細切れの履歴書よりもくしゃくしゃにされた心の代わりがなくて
030:牛(76〜102)
(中村成志)色深き耐熱軍手まとう手が牛の素肌に刻印を押す
(はづき生)牛のもつのつそりとした雰囲気をまとひつ牛はのつそりあゆむ
(新田瑛) 牛飼いはおもう 地平の果てにある知らない町の知らない人を
(迦里迦)蝸牛(かたつぶり)舞へ舞へといはれうらやまし 舞うたらころんだわがメニエール
(五十嵐きよみ)牛乳が熱くてできた火傷とはちがう痛みの舌をなだめる
036:意図(52〜76)
野州) 日輪の月影にゆくことはりの意図を測りに悪石にゆく
(流星文庫)その意図も涙の理由もわからないままに君と海を見にいく
(迦里迦)風に意図ありや月夜(つくよ)にはや眠る桜ばかりを攫ひゆくなり
(原田 町) 意図したるごとくに子らは離れゆきつんつんつばめ巣作り始む
(祢莉) どうしても返事が欲しくて意図的に質問混ぜる君へのメール
(花夢)意図的に嫌いになろうとしてみたら涙みたいに星が流れた
078:アンコール(1〜25)
(みずき)アンコール痺れる程にしたのちの転調といふ夜の陶酔
うたまろ)暗黒の世界に光を取り戻す アメノウズメよ さあアンコール 
081:早(1〜25)
(船坂圭之介)早ばやと窓閉づごとく一枚の画像外しぬ 冬ぞいま逝く
(梅田啓子)咲き初めし寒緋桜の木の幹をコゲラはつつく早春の朝
(みつき) 君に会う日は地下鉄じゃもどかしく一駅の距離早足で行く
082:源(1〜25)
(みずき)吾亦紅夜のとばりを明け染めて源流ちかきせせらぎに咲く
(小早川忠義)教室に一番に来る市境の電源開発社宅のあの子
(ジテンふみお)幸福の近いところに居るらしく資源ごみだと分別できる
084:河(1〜25)
jonny)川という川が河口を目指すのは海が故郷だからだろうか
(みずき)「帰らざる河」共に観し街角はうたた過ぎゆく春の陽炎
(船坂圭之介)みづからを鎖す心や砦とはならぬ河辺に身を沈め伏す
(梅田啓子)「歌詠むに河原乞食のこころ持て」書きたる人をひそかに師とす