題詠100首選歌集(その35)

         選歌集・その35


004:ひだまり(254〜278)
(ちりピ)テノヒラにつかめるだけのひだまりをインクに溶かしてつづった手紙
(文)わたしにも矜持はあると如月のひだまり移る窓の辺にゐる
(ムラニシミツナ)6人の小さな笑顔のひだまりをギュッと集めて日陰にかえす
(羽うさぎ)ひだまりをみっつくださいあの人とわたしとそして未来のために
(シホ)ブランコを 空に向かって こいでみる 冬の公園 ひだまりのなか
006:水玉(237〜261)
(kei)初夏の声は水玉スカートは端から染まり始め水色
(bubbles-goto) 水玉のフレアスカート広がるをフィルムに残すロックンロール
(文) 水玉のランチョンマットに取りかへて弥生の光をきみと分けあふ
(ゆず)泣き出してしまう代わりにネクタイの水玉を数えながら頷く
(フワコ) 水玉のストールふんわり巻く今日をひらひら過ごす水色の羽根
(お気楽堂)水玉の柄を買わない理由など部屋を見渡しふと考える
015:型(179〜204)
(やや)「大好き」がクレシェンドしてとめどなくあなたの型にはめられている
(佐原みつる) 型通りの謝罪で始まる会見にネクタイが少しゆがんで見える
023:シャツ(130〜154)
(酒井景二朗)ナイーブが似合はぬ顏と知つてからさらに粗雜になるシャツ選び
(ゆき) ユーミンの歌なぞるようあぁ君のチェックのシャツが風に膨らむ
(橘 みちよ)いくたびも抱きしめしはずのワイシャツのくびのサイズを知らぬまま過ぐ
(こゆり)眠ってるあなたのシャツを直すのが幸せならばそうかもしれず
(村本希理子)半乾きのシャツが躰になじみゆく速度に読みゆく「支那絵画史」を
(英田柚有子)厄年が次々と来る いつまでもフリルのシャツを脱げないわたしに
035:ロンドン(77〜101)
(イマイ)クーラーの効いた車内で聞く過去はロンドンよりもはるかに遠い
(富田林薫)すこしだけ高いところの風をさがしてロンドンバスの二階にすわる
(ほたる)ロンドンへ行く夢を見た翌朝はうさぎのカップに紅茶を淹れる
036:意図(77〜101)
(イマイ) それぞれの意図が朝から見えなくて油性マジックのインクの匂い
(流水)反逆の意図など遠くに捨ててきた二度と会わない人の流れに
037:藤(77〜101)
(こすぎ)残されてしなだれていく雨の藤 見たいものだけ見に行けあたし
(イマイ)咲き終えた藤棚の下の暗がりに顔も手足も染まらないまま
(藻上旅人) 藤棚の下を独りで歩み行く駆けてた頃の友の温もり
(七十路ばば独り言)飛火野の藤の紫変わらねど疾く旅立ちぬ二人の友は
(こうめ)唇に触れる低さの藤の香は淀み重なり我を埋めゆく
(ほたる)「厳密に言えば」だなんてその先はどうでもよくて藤蔓を編む
038:→(77〜101)
(五十嵐きよみ)大袈裟にしたくないから文末に書き足しておく顔文字ひとつ(→_←)
(西野明日香)大阪→(から)結局どこへも飛べずして往復切符に触れる指先
(イマイ)あやふやで誰かのせいにしたくなる(順路→)進めば紫陽花の丘
(七十路ばば独り言)標識の黄の→が飛んでくる追われているよな夜の高速道
(ほたる)路面には消えぬチョークの→とねじ曲げられた時間が残る
059:済(26〜50)
(チッピッピ)切り替えを早く済ませと日々責める テレビの右上アナログの文字
ウクレレ)もう済んだことだと空に言い放つヒコーキ雲よ消えてなくなれ
野州)はつ夏は笑つて済ますひとばかり峠に白いエゴの花咲く
060:引退(26〜50)
(迦里迦)会見もいと華々しき引退のインタビュー聴く音量下げて
(柚木 良)引退を報らせる文字の滝つぼに音無く落ちる別の引退
(秋月あまね) 白球のかがよう空をさかしまに少年は思う引退の日を