題詠100首選歌集(その36)

          選歌集・その36

003:助(263〜287)
(水都 歩)青春の助走だなんて気障だねとにきび面して髪かき上げる
(羽うさぎ)助走するはずだったのに踏み切れず長距離走になりかけている
駿河さく) 茜射すあなたに救助される夢みれば現はいつも土砂降り
019:ノート(152〜177)
(ひわ)でもすごく幸せだった 綴らずにいられなかったノートを閉じる 
(文)萌えそめし春草をわけ踏査するフィールドノートのインクのにじみ
(美木) ノートにはレシピとタンスにあるものと別れの言葉書いてきました
(羽うさぎ) 青空にかざすノートを手渡されそっと開けば夏がはじける
020:貧(152〜176)
(駒沢直)貧しさの対極にあるコーヒーの香りに包まれ「それから」を読む
(のびのび)こみあった社員食堂隣席の貧乏揺すりでに急かされている
(岡本雅哉)貧しさがもう白くないiPodのイヤフォンコードにからみついてる
025:氷(126〜150)
(振戸りく)丸くした氷は地球 夕暮れの色のリキュール満たしたグラス
(橘 みちよ) 軒したに煌めく氷柱(つらら)をたおりては持ちてあそびき手の痛むまで
(村上はじめ)生ぬるいビールに氷落としては酔えない夜にひとりで乾杯
(キャサリン)自分には見えないくせにカキ氷に染まった舌を見せびらかしてる
(ぷよよん)舌先の知覚過敏がおしえてる氷のかけらとあなたの嘘と
(たかし)水色のセーター腰に巻き付けてかき氷つくる指の丸さよ
031:てっぺん(101〜126)
(nnote)鉄塔が埋め尽くす空てっぺんの青に漂うさまざまのゆめ
(藻上旅人)この星のてっぺんついに見つからず上と下とが夜毎にかわる
(emi) ヒマラヤのてっぺんに立つその人も幻の花に出会えたろうか
(橘 みちよ) 鳥ふたつ螺旋えがきて上りゆく空のてつぺん極めむまでに
032:世界(101〜125)
(青野ことり)いまいくつ開いたのだろう 気がつけばマトリョーシカのような世界だ
(羽うさぎ) ひとりずつ世界はありてまじわらせつなぎひろげてときにはこわす
039:広(77〜103)
(西野明日香)決断をするにはここは広すぎてあの橋渡る風を見ている
(nnote) 駅前の広告塔はしろいまま言葉が雨になって流れる
(流水)哀しみは少し遅れて滑り出す吊り広告をふいに揺らして
(月下燕) 言い訳が必要ですかこの広い五月の空の下の二人に
(ほきいぬ) 片付けてしまえば広くなる部屋で「ピタゴラスイッチ」を眺めていたり
047:警(52〜78)
(はづき生)町内を夜警で廻る時季がくる今年はふたり欠けている冬
(nnote) 梟のような眼をした警備員地下駐車場に樹海の気配
(七十路ばば独り言) 12時のサイレン聞くたびあの頃の空襲警報思い空見る
048:逢(51〜77)
(理阿弥)夕影に行き逢った子の差し伸べた手にブランコの錆の冷たさ
(新田瑛)君に逢うために三万光年のトンネルを駆け抜けてきました
(原田 町) 不謹慎と思うけれども通夜のせき逢えざるひとに逢えるよろこび
(西野明日香) すぐそこにここに出逢いし人々を遣り過してはまた夏が来る
049:ソムリエ(53〜77)
(Yosh) 人生のソムリエおらず たヾ道を歩いた先の泥水を飲む
(春待) ソムリエに説かれるままにロゼ選び君と夜景を見降ろす週末
(中村成志) あの人のおもかげ覗くソムリエがワインの滓を揺らす角度で
(かりやす)赤も白もよく分らずにソムリエの美(は)しき指先ばかり見てをり