題詠100首選歌集(その37)

       選歌集・その37


016:Uターン(181〜206)
(兎六) 影だけがUターンせず進みもせず別れ話のあとの半年
(羽根弥生) どこまでもUターンできぬ道をゆく 真白き肌を月に撲たせて
(ワンコ山田) 押しつける星の約束Uターンできない身投げ落果落陽 
021:くちばし(152〜176)
(湯山昌樹)くちばしの黄色き者と自覚しつつ早四十の半ばにかかりぬ
(のびのび) お取り込み中恐れ入りますが零時です鳩時計の中ためらうくちばし
(村本希理子) くちばしのなきことふしぎいりまめを続けつさまについばむわれに
(bubbles-goto)どこにでも挟むくちばし掲げつつドナルドダックが戦争に行く
024:天ぷら(128〜152)
(キャサリン)あぶなくて勿体無いと天ぷらをスーパーで選る独り居の母
(村本希理子) 春の野に遊びて揚げる天ぷらの 蓬 虎杖 春の心臓
(たかし)天ぷらの衣がすっと抜け落ちるハダカのエビの夏が始まる
033:冠(103〜127)
(虫武一俊) 冠されし未経験歓迎!の文字に無駄足ばかり踏まされている
(にいざき なん) やめていた話の続き教えよう冠水橋を泳いだ後で
(青野ことり)夕焼けが薄れるのにも気づかずにシロツメクサで編んだ冠
(新野みどり)ペンギンの冠羽は黄色く輝いて夏の僕らは笑い合ってた
(羽うさぎ)草冠の名をもつ君のすずやかなみつあみゆれる初夏の坂道
040:すみれ(78〜102)
(nnote)淡淡と夢を侵蝕するすみれあしたあなたを受け容れましょう
(五十嵐きよみ)夕焼けが静まったあと薄っすらとすみれ色めく空を見ている
(こうめ)君が手にかかる間際のビーカーはすみれ色にて電極を待つ
050:災(51〜75)
(秋月あまね) 厄災がはじめて目にした私を親と信じて追いかけてくる
(理阿弥)引き籠る平時の吾に贈らるる罹災時向けの手回しラジオ
(かりやす)息災であればよしとは風邪をひくたびに思(も)ひしが忘れてしまふ
(西野明日香) 真っ白なあの日震災の町は今日南西の風 鯉泳ぎたり
(七十路ばば独り言)寄る辺なき老人住む家焼け果てぬ人災とう語の虚しき響き
061:ピンク(26〜53)
(蓮野 唯)引退の記念にもらった花束のピンクもやがてセピアの思い出
(ふみまろ) かけ出しの女優はピンクを脱ぎ捨てて退屈そうに夏をはき出す
(ひいらぎ) 受け取った手紙はピンクの便箋でごめんねだけが記されている
ウクレレ) バスタブをピンクに変えるほど泣いたひとつの恋を終わらせるため
062:坂(26〜51)
(畠山拓郎) 坂のない町に育って憧れる北野坂とか尾道だとか
(Yosh) 年々と坂の傾斜がきつくなり 時の流れに追われて焦る
野州) ゆるやかな坂を下れば自転車は店を閉ぢたる豆腐屋を過ぐ
(羽うさぎ) 坂ひとつ越えてたたずむ今だから言葉が棘をもつことを知る
063:ゆらり(26〜51)
(チッピッピ)胎内に宿りし命動くたびゆらりゆらりと金魚が泳ぐ
(はこべ)バスクリンゆらり囲まれひとときは昨日のうそを許してしまう
(ふみまろ)繁れどもとり残されし言の葉にゆらりと沁みるこの春のこと
(柚木 良)たったいま失恋をしたひとをみる最終電車ゆらりゆられて
(理阿弥)満中忌揺らげる君の目の奥にたまゆらりりしき炎がみえる
(野州) あたまから乗り合ひバスは現れてをんなはゆらり日傘を回しぬ
(のびのび)両の手がゆらりのリズムで揺れてやがて赤子は眠りに落ちる黄昏
(羽うさぎ) 恋ゆらり もつれる思いほどくようになだめるように指にからめる
065:選挙(26〜50)
(のびのび) 「久しぶり、元気にしてる?」とメール来て もうすぐ選挙なんだと気付く
(羽うさぎ) はじめての選挙にむかう君の背をやらずの雨がぬらす日曜
野州)何日ぶりだろうか髭を剃る朝は負ける選挙の投票に行く