題詠100首選歌集(その38)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して5年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


    選歌集・その38


001:笑(301〜326)
(ami-cizia)爪きりからこぼれたカケラの哄笑が夜空にひびいて眠れないのだ
(丸山程)嘘をつくときだけ見せる微笑みがまた一段と美しくなる
010:街(211〜236)
(みぎわ)日常があくびしてゐる夜の底、街区のたがが軋み始める
(かずみん) この街にあなたがいない寂しさを悟られまいと笑った昨日
(こおなまぬがな) きみの背にピタリと頬を押しつけてバイクがひいてく街路樹の影
(羽うさぎ)夏の朝 霧ふかく濃くたちこめて街のどこかにあなたを隠す
(斗南まこと) ひとりきりさまよう街でひっそりとはぐれ続ける月になりたい
(ちりピ) 雨の降る音を聞いてた この街はいつまでたっても知らない街だ
(冬鳥)きみもまたたゆたう小舟 この街に碇を下ろす場所をさがして
011:嫉妬(206〜230)
(かずみん) 「1番じゃなくてもいいよ」嫉妬心隠したままで座る助手席
(こおなまぬがな)紫は嫉妬の色というらしいブルーベリーパイを真夜中に焼く
(紫月雲)一生のテーマは「嫉妬」と言う君の眼の色深くあたたかい色
(ちりピ)水滴の音を数える 嫉妬する夜は長くて静かで暗い
(日向奈央)紫陽花と嫉妬が結びついている 雨が染み込む靴の感触
026:コンビニ(129〜153)
(村本希理子) コピー機にコイン落とせばひらく井戸 夜の裂け目にコンビニはある
(羽うさぎ) コンビニの青白き光さやかなるしるべとなりて町をただよう
(酒井景二朗) 出來るだけうなだれてみるコンビニの痩せた油の香につつまれて
034:序(101〜125)
(間遠 浪)序にかえてくちづけをする ここからがきみを忘れてゆく物語
(月下 桜) 背の順や成績順に慣らされた序列のなかで安心している
(あみー)こんなにも序章が長く続くなら今夜は早く寝ることにする
041:越(78〜104)
(五十嵐きよみ) 抜かれてはまた追い越して海までを少年たちの自転車が行く
(イマイ) 越える気ははじめから無く伝票を大きな音で捲り続ける
(羽うさぎ)ふたりして越えていこうよ回帰線もどらぬことの証明として
(ほたる)越えられぬかなしい夜に抱いている灰色猫の残した重さ
(村木美月) 雑踏にまぎれて歩く越えられぬ課題をひとつ蹴飛ばしながら
055:式(51〜75)
(はづき生)葬式は当人列席せぬままに粛々と執り行はれたり
(秋月あまね) はじめから無かったように級友の名は飛ばされる式典のなか
(原田 町)空たかく朴の花咲き金婚式めぐりきたるや塚本邦雄
064:宮(26〜50) 
(行方祐美)新古今を捲ると光り出だすひと宮内卿とは雪のむら消え
(新井蜜)宇都宮餃子の店にきみと行く五月雨の日の午後の約束
(理阿弥)返事待つモニタを映す窓に闇 蛾を喰う守宮の腹膨れゆく
(にいざき なん)神宮の球場間近思い出す話の続きしたかったこと
066:角(26〜50)
(チッピッピ) サントリー角のCM小雪見て琥珀色した恋思い出す
(ひいらぎ)置き去りにされた温もり座布団の四角がやけに大きく見える
069:隅(26〜50)
(行方祐美)隅谷三喜男を開かないまま畢りそう労働という戦も知らずに
(わだたかし)片っぽの隅に落ちてた愛ひとつ床いっぱいに広げて寝よう
(新井蜜) 消え失せたはずの思いがあふれでる部屋隅の屑かごのふちから
(のびのび)膝抱えうずくまりたい夜のため部屋の四隅に置かれてるクッション
(羽うさぎ)いつの日も死にゆくための物語が世の隅々で紡がれている