題詠100首選歌集(その40)

       選歌集・その40


002:一日(277〜301)
(櫻井ひなた)一日中パジャマの『あたし』で過ごすのでスーツの『わたし』はお休みします
駿河さく)夏なんか来なくていいの約束を忘れる準備してる一日
(丸山程) 一年に一日くらい花束を抱えて帰る日があっていい
(本田鈴雨) なかぞらに一日をすごす雨もよひ体重計の電池切れたり
008:飾(228〜253)
(bubbles-goto) 世界中寓意に満ちていた頃の飾り文字から伸びる蔓草
(かずみん)あなたへの想いと反比例してる控えめな髪飾りを選ぶ
(冬鳥)袖口の飾りボタンがあのころの精一杯のプライドだった
022:職(151〜175)
(のびのび)まだ辞めない我を励ますためにあるポケットの中の退職届
(村本希理子) 傘をさすほどぢやない雨 職歴に主婦と書いたり書かなかつたり
(羽うさぎ)職員室の職員という先生は少し距離あり足早に行く
(宮田ふゆこ) ネスカフェとひなたの匂い 先生は職員室では怖くなかった
(sora)空色の提出書類を投函する職業欄は空白のまま
029:くしゃくしゃ(128〜152)
(羽うさぎ) くしゃくしゃに脱ぎすてられた子のシャツの草色のしみとひなたのにおい
(惠無) 押し入れの隅の箱にはくしゃくしゃに泣き笑いする君が隠れる
(斉藤そよ) 神様が書き損じたかくしゃくしゃにまるめられてる夏のシナリオ
035:ロンドン(102〜126)
健太郎)郊外にロンドンからの旅人と同じ景色を見ている時雨
(萱野芙蓉)夏の時間ゆるくながれてロンドンの懐古録から呼ぶわかき声
036:意図(102〜126)
(都季)そこにある意図に気付かぬふりをして僕らは笑う少し俯き
(村木美月)傷ついたくせして笑って手を振ったわたしの意図を裏切るわたし
(美木) 左手の指輪が意図する内容に気付かぬフリをして彼に会う
(萱野芙蓉) 意図的にすこしずらした視線から予定調和がほころぶ愉悦
037:藤(102〜126)
(青野ことり)匂やかにたおやかに風ふくらまし五月にゆれる藤の花房
(都季)今はもう更地になったあの家の藤の残像ちらつく五月
(羽うさぎ)藤棚の下にゆれてるブランコで少女は時をゆきつもどりつ
KARI-RING)青から藍藤の色へと切れ目なく海は続けり夕日抱くため
(ゆき)地にとどく長きしなひの藤の花娘心はときに重たし
(振戸りく) 箪笥には母が選んだ藤色の小紋が出番を待ち続けてる
056:アドレス(51〜75)
(羽うさぎ) アドレスとピアスとつばさを部屋に残し行方不明の天使を探す
(西野明日香) 開くたび目立たなくなるはずだからあ行に残す君のアドレス
068:秋刀魚(26〜50)
(ひいらぎ) 夕暮れに秋刀魚の焼ける匂いしてもう握れない右手を想う
(羽うさぎ) 苦味まで好きになってる塩焼きの秋刀魚のにおい煙る三日月
野州)剥き出しの秋刀魚提げつつ帰りゆく暮れ方の街古傷うづく
071:痩(26〜50)
(ことり)痩せちゃったほたるみたいなとおいゆめぐしゃんとつぶす自転車の影
(チッピッピ)痩身の折り込みチラシ日々増えて薄着の季節あともう少し
ウクレレ)月光を浴びて痩せたい思い秘め彫刻刀で言い訳削る
(野州)つくづくと五叉路ばかりの町なれば斜め路地には痩せ猫あゆむ