題詠100首選歌集(その41)

        選歌集・その41


005:調(265〜289)
(Insight) 夏の日に少女の怒りは輝いて叫びの中で調律をする
(本田鈴雨) 変調は高みにむかひギター弾く夫の少年期のこゑおもふ
(吹雪)雑誌読むきみがこぼしたハミングの調べをひろう日曜の午後.
012:達(210〜235)
(本田鈴雨) 公認のかけおちのごとき出奔に「達者で暮らせ」と父言ひし夜
013:カタカナ(204〜228)
(やすたけまり)「スズキヘキ童謡集」のカタカナをたどるゆびさき「ヒョーント ヒトリ」
(羽うさぎ) カタカナのかたい響きを舌にのせ角をとかしてひらがなにする
(紫月雲)カタカナでアキコと書けば色のないアキコら遠くこだましてゆく
031:てっぺん(127〜151)
(村本希理子)ユルいのはいけないですか てつぺんが常に下向くソフトクリーム
(bubbles-goto)てっぺんでそのときを待ち密やかに避雷針らは指を広げる
(ぷよよん)ちくちくのこんぺいとうのてっぺんに大好きだよをちょっぴり乗せる
(キヨ)年の差を感じたことはくちびるのてっぺんだけに触れるキスとか
039:広(104〜128)
(ゆき)人ごみの泉の広場をすり抜ける愛されたいとはなんと不遜な
(ほたる)許される範囲は広いほうがいい 赤い付箋は少なくていい
(村木美月) 祈りにも似ている浅い眠りから目覚めて宙(そら)は広がる神秘
(萱野芙蓉) 変態を経ぬまま蝶となりしもの画布の広さの宇宙にあそぶ
(櫻井ひなた)先輩の背中は遠くて泳げないあたしの中の広すぎる海
(文) さんざめく人々の声たかくひくくカンポ広場の時空たゆたふ
(ぷよよん)目的はカラダだけだと割り切れば広がりゆく海 夏はもうすぐ
043:係(77〜103)
(流水)背もたれて陽を浴びた壁の温もりが互いに伝わるやうな係わり
(ほたる)セロファンの赤を重ねていくように見えにくくしてしまう関係
(新野みどり)係など決めることなく恋をした自由なままで向き合った日々
044:わさび(77〜101)
(こうめ)わさび田の守(もり)はかつて尖りゐしクラブで踊り迷ひし青年
(五十嵐きよみ) 気の抜けたわさびのような皮肉しか言い返せずによけい悔しい
(羽うさぎ)わさび田にほたる飛びかう星月夜だいじなものはかすかにひかる
(ほきいぬ)動かない時間の中でこれではとわさびの量で駆け引きをする
045:幕(76〜100)
(吉里) 幕下りて余韻が残るお芝居と同じなんだと生きる道問う
(五十嵐きよみ)幸福な場面を描いた幕がない歌劇を見終えすこし疲れる
(羽うさぎ)花見幕ゆれてほのかに色づいたさくらときみが手まねきをする
(イマイ)暗幕のように広がる沈黙に雲は静かに流れて消える
(ほたる) 暗幕をひいた教室セーラーのリボンが揺れて秘密めく夏
053:妊娠(52〜78)
(秋月あまね) 夕立のような妊娠 ケータイに繋がれてある勾玉ひとつ
(羽うさぎ)妊娠を告げる時には大天使ガブリエルにもなれる気がして
(こうめ)我知らぬ世界はやさしい 妊娠を経てゆっくりとしゃべる友達
(nnote)ひとひらの秘密を抱えひだまりを猫と分け合う妊娠を知る
070:CD(26〜50)
(七五三ひな)CDをレコードと呼ぶ父がいてラヴェル奏でる里帰りの夜
野州)六月のひかりを返し鳥を追ふCDにあるケッヒェル番号