題詠100首選歌集(その42)

             選歌集・その42

009:ふわふわ(229〜253)
(羽うさぎ) ふわふわのケーキが焼けた程度には笑顔になれるメールが届く
(ちりピ)まだ夢のなかで私は暮らしてます わたげがふわふわとんで春です
(冬鳥)雲ゆけば日々も過ぐもの ふわふわとわたしをゆるすものの大きさ
(吹雪)夏風に千切れた雲がふわふわと少女みたいに形を変える
017:解(181〜205)
(佐原みつる) 解説を加えられても甘すぎる抹茶フロート 持て余している
(櫻井ひなた)どれだって正解だったあたしにはあたしが決めたことなんだから
(ワンコ山田)すれ違うたび温まる溶媒にじわり上向く溶解度曲線
(ちりピ)まだ雪が解(ほど)けきらずにほろほろと朝日が君の背に零れゆく.
023:シャツ(155〜179)
(岡本雅哉)いつまでも幼いままの恋人よわたしのシャツはタオルではない
(宮田ふゆこ)きみの手で過剰包装ほどかれてシャツはボタンを意識している
(やや) みつばちの羽音のような声あげて洗いざらしの綿シャツを脱ぐ
(こはく)一通り終えたところでまっさらなシャツがあなたをゆるくかたどる
(sora)ひとり居る午後二時半は小糠雨カッターシャツにアイロンをあてる
(志井一) 洗濯をする必要がなくなってYシャツを脱ぎっぱなしにした日
(しおり)びしょ濡れの白いTシャツ張りついて男の視線かわす憂鬱
032:世界(126〜150)
(Re:) そんなわけないけど君と出会うまで世界はずっとモノクロだった
(橘 みちよ) クオ・バディスの挿絵に惹かれ読みしあの『世界名作全集』いづこ
(ぷよよん) ぬばたまの夜にささやくトルソーの中庭にあるふたりの世界
(笹本奈緒) 6畳の世界の海はどんな色 君から借りる本はしっとり
033:冠(128〜152)
(みぎわ) 箸墓の古墳に眠るそのかみの*みづら*を飾る花の冠
(文) 晩春の野に輝ようて金鳳花ちひさきものの冠とせむ
046:常識(76〜100)
(流水)真夜中に爪切ることの非常識 添えない人に気を揉んでいる
(イマイ)カタログを縛りつつ聞く常識が倉庫のすみで重く響いた
(音波) 常識とジョーシキにやや差があってまた来週の約束がない
(暮夜 宴)常識の範囲でさりげなく主張くすり指だけまだ妻でいる
057:縁(51〜75)
(原田 町) 異なものの縁にむすばれ四十年さてこれからと郭公の鳴く
(ゆき)背けども縁の糸の固結び色目ふりゆくおぼろくれなゐ
059:済(51〜75)
(羽うさぎ)あいさつは済んだ荷物は片づいた他人のふりの部屋はしずかだ
(KARI−RING)「トラウマ」と私の経験決めないで解決済みの身の上話
(ゆき)もう済んだことぢやないのと蓋をすることことことことお鍋は煮える
072:瀬戸(26〜51)
(迦里迦) かなふなら音戸の瀬戸の日招きの無理強ひ真似たき 齢(よはひ)は没り日
(ふみまろ) 瀬戸をゆく船便絶えて少年の愛した島は絵葉書となる
ウクレレ) 瀬戸内の穏やかな海眺めつつ内より君へ寄せる高波
075:おまけ(26〜50)
(チッピッピ)四十代過ぎればあとは「おまけ」だと思えるほどに悟りひらけず
(木下奏)おまけ付き菓子を買ってた弟が姉の私に菓子だけ渡す
(新井蜜) 金魚鉢に金魚のいない理髪店おまけにくれた十円硬貨
(わだたかし) 昔からおまけのほうが好きだからキミとは上手く続けていける
(ひいらぎ) おまけでもいいから箱から取り出してここにいること気付いて欲しい