題詠100首選歌集(その43)

         選歌集・その43


014:煮(203〜227)
(本田鈴雨)黄身ゆるく茹でられ剥かれふるふるとあはれ玉子の煮られむ刹那
(佐藤羽美) 菜の花を活けたりおでんを煮てみたり日没前の淡いぬかるみ
015:型(205〜229)
(ちりピ)なみだ型ドロップ舌でころがしてきみの手紙をまた読み返す
(佐藤羽美)TYPE-D最新型の妹の頬のまろみを憎む小春日
018:格差(184〜210)
(ゆら)知っているきみの性格差しぐんだ涙は知らないふりの珈琲
(佐原みつる)とりあえず格差社会を持ち出して原稿用紙の升目を埋める
(ワンコ山田) 愛すべき多重人格差し掛けた傘にすんなりはいる日がある
(龍庵)「格差って笑顔に出るね」そう言って僕の卑屈な笑顔を笑う
(ぱぴこ)学ランの似合った君が無精ひげ生やして格差社会を憂う
024:天ぷら(153〜177)
(駒沢直) 思い出の日付ひらめく新聞に天ぷら油を吸い取らせてる
(宮田ふゆこ) 天ぷらを揚げる私に降りてくる私ひとりの夕立の音
(sora) うごくことさへ億劫になる六月の夕餉の皿に独活の天ぷら
(佐原みつる) 結びつきが強いのはむしろ厄介で天ぷらうどんを一人で啜る
040:すみれ(103〜127)
(ほたる)すみれ色したしあわせとふしあわせ ひとさしゆびでかき混ぜている
(萱野芙蓉) 騙されてゐるかもしれず儚げな顔にて庭をうめゆくすみれ
(ゆふ)ハンカチにあなたのイニシャルを刺繍(さ)してゐるすみれ色した糸を縒りつつ
058:魔法(51〜75)
(髭彦)湯を保つたかが壜にぞ魔法とて形容なせしこころを偲ぶ
(原田 町)うつし世に魔法あらばと祈りつつ河野裕子の闘病歌よむ
(七十路ばば独り言)ライン河船下りして古城見る魔法使いはいづち行きしか
073:マスク(26〜50)
(七五三ひな) あらたまの春のサインになりにけり花粉情報とメガネとマスク
(羽うさぎ) 街中(まちじゅう)のドラッグストアをめぐりゆくマスク難民となりし我らは
(秋月あまね) むせ返る紫煙の中の男らは下顎あたりにマスクを掛けて
074:肩(27〜51)
陸王)肩触れることより明日の雪のこと話弾んで雨の日は好き
(理阿弥)吾が胸をひとりで抱く態(なり)をして肩の後ろの寂し毛を抜く
(ふみまろ)肩までの弧をなじませる熱ありて月のとびらのとけるはじまり
(秋月あまね) 上の子は小学校にあがると言うあなたの肩はあくまで薄い
(たざわよしなお)画材の詰まるトートバッグの肩紐がちぎれかけつつゐる児の猫背
077:屑(27〜51)
(ジテンふみお)パン屑をやけに気にする 月並みなことばしかないテーブルの上
(ひいらぎ) あんなにも特別だった毎日も紙屑に見え終わりが近い
野州)散らばれるこころの屑を拾うては見上げる夜のそらに星無く
079:恥(26〜50)
(マトイテイ) 恥じらいと反比例した感情が乙女の腰に纏いつく街
(羽うさぎ)恥ずかしいと言いつつパフェを食べるきみ言い訳してもイチゴは赤い
(ひいらぎ) 恥じらった分だけ氷は溶けだして好きと言えずにアイスコーヒー