題詠100首選歌集(その45)

           選歌集・その45


004:ひだまり(279〜303)
(佐藤羽美)たっぷりの白いひだまり沁み込んで汚れはじめる五月の木蓮
(椎名時慈) 世話好きな飼い主よりもひだまりに行きたい猫を抱けない寒さ
(下地杏) あの冬に凍えて泣いた日野駅のベンチが今日はひだまりの中
006:水玉(262〜286)
(龍庵) もし雨で暇だったなら水玉を数えて僕と過ごしませんか
(椎名時慈)似合わなくなった水玉ワンピース着ていた頃に出会えていれば
(下地杏)カルピスの水玉模様はじけてた昼寝の夢に呼ぶ「お母さん」
041:越(105〜130)
(櫻井ひなた)憧れと恋の境界線をまだ越えられなくて閉じ込められてる
(emi) 窓越しに海を見ていたその夏が永遠であるはずはなかった
042:クリック(101〜125)
(ゆふ)クリックしてネットの海を漂へるひとさしゆびは人恋ふ指よ
048:逢(78〜103)
(五十嵐きよみ)旧仮名のほうがなじむと思うからそこだけ「めぐり逢ひ」と書きたい
(ほたる) 「逢いたい」と文字にしてみるそれだけで後ろめたさが募るたそがれ
(龍庵) 逢うという漢字はいつも艶めいて君を抱きたい時だけ使う
(ほきいぬ)つるつるの小石みつける 逢いたくて夏の坂道立ち漕いでゆく
049:ソムリエ(78〜102)
(風天のぼ) ソムリエの言葉は軽く紋切りの比喩と副詞のふたひらみひら
(イマイ)私より先に老いゆく人は言うソムリエのいる店のことなど
(暮夜 宴)乞うように梅雨のあいまの晴天は色とりどりの野菜ソムリエ
(青野ことり)顔色も変えずに注ぐソムリエの嘘に気づかぬふりで呑みこむ
065:選挙(51〜75)
(中村成志)永遠にきみと別れる日の朝のドアに差された選挙広告
078:アンコール(26〜50)
(ぽたぽん)最初からプログラミングされていたアンコール残し客席を立つ
(新井蜜)アンコール聴かずに帰るパトカーが近づいてきて去っていく道
(野州) 漕ぐ舟のあまき睡気のかなたより聞ゆ潮騒のごときアンコール
082:源(26〜50)
(伊藤夏人) 震源はあなたの胸の奥だから背中をそっとさすってあげる
(ゆき) きぬぎぬのメールひそかに待つわれは源氏の姫のいづれに似たる
(龍庵)一面にビニール傘の花が咲く水源として夕立が降る
084:河(26〜50)
(ふみまろ)河岸にシジミを堀りし夏の日のきみはかくれて夕焼け小焼け
(ひいらぎ)別々の相手と笑い合いながら切なさ流していた河川敷
(ゆき) ゆふぐれの河原町ゆくかりそめの恋と知りつつ手をとりてゆく