題詠100首選歌集(その47)

         選歌集・その47


001:笑(327〜351)
(エフ) 笑うよに風含む道 梅逝けば今だけ木瓜とわかる木が咲く
(川鉄ネオン) 愛想笑い浮かべる俺の足元で影が黙ってふてくされている
(絢森)微笑みのような果実を握りしめ君は真冬の庭に佇む
003:助 (288〜313)
(勺 禰子) 助け舟あちらこちらに見えつつも助けられたくない夜がある
(佐藤羽美)春風がまとわりつけり中庭を抜ける研究助手の白衣に
028:透明(155〜179)
(斉藤そよ) 慎重に我にかえれば透明な水が野山にみちる水無月
(酒井景二朗)朝が來て半透明の生物を纏ふあなたが他人に見える
(岡本雅哉)なにひとつ悩みがないと思われて明るく冷たい透明になる
(やや) 不透明なものばかり増え色あせるくちなし香りだけを残して
035:ロンドン(127〜151)
(橘 みちよ) 部屋中にロンドンの霧満ちをらむ『ホームズ全集』開きしまま来ぬ
(emi)ロンドンは今日雨ですと遠い声聞こえて開く受信履歴
(穂ノ木芽央)ロンドンより帰り来たりし探偵が山高帽と嘘しまひこむ
036:意図(127〜151)
(橘 みちよ) 意図もせず傷つけてそれに気付かないをとこ幼し恋にはとほし
(駒沢直) 言葉ではさようならとは言わないであの曲かける君の意図知る
037:藤(127〜151)
(ぷよよん)藤の香をたどってきみを閉じ込める棚から流るるむらさきの檻
(文)山藤の一枝に莟の幾房かつぶだちてをりみどりはかなし
(酒井景二朗)藤棚の下で莨をふかすのが贅澤だつた日を忘れない
045:幕(101〜125)
(虫武一俊)最初からあがらないって決まってた幕にくるまり不貞寝してみる
(振戸りく) なにもかもはっきり見せてしまってはつまらないねと紗幕を下ろす
(新野みどり)片恋に幕を下ろそう空高く乾いた風が吹いてる朝に
(みぎわ)花道の幕に風あり菊之助の花子狂ひてゆくしもぶくれ
(都季) 否応もなく幕は開き今日もまた演じきれないまま朝が来る
051:言い訳(77〜101)
(五十嵐きよみ)切り分けるすべがないのを言い訳にひとつの梨を交互に齧る
(イマイ) 言い訳はきみにはしない焼き鳥を口に入れつつ許されている
(流水) まるで鰓呼吸するやう嘘を吐く言い訳もする生きてゆくため
(ぷよよん) 言い訳とわかって許す星空はプラネタリウムの幻だから
(村木美月)言い訳を用意している帰り道とまどい揺れて乱反射する
(短歌サミット2009.にゃんにゃん)簡単に言い訳なんてしないでと大根おろしを一気飲みする
(磯野カヅオ) オルゴールぱじりぱじりと捲きながらつじつま合はぬ言ひ訳をせり
(青野ことり)こんな夜はなにをいっても言い訳にしかきこえない 声が遠いよ
(ほきいぬ) されたくないときもあるって思うからしなかったんだっていう言い訳
061:ピンク(54〜78)
(西野明日香)封じ込めたものがふつふつと湧いてきて春のピンクが街を彩る
(ゆき)花びらにあはきピンクの斑(ふ)は浮きぬ君住む島の形はありや
(祢莉)魔女の作るチェリーピンクの毒薬で恋に落ちようもう夏だから
067:フルート(51〜75)
(こうめ)フルートに少女の吐息は訳されて サッカー少年見上げる校舎
(フウ)季節なら春を告げてるフルートの音色は澄んだ川面の流れ
(髭彦) ランパルとふ名手のありてフルートのバッハ知りける日々の遠かり
(ゆき) 私には生涯かかわることのなきものとしてある銀のフルート
(西野明日香) 私にはオカリナ君にはフルートの音(ね)が聞こえてるほどのジレンマ