題詠100首選歌集(その48)

       選歌集・その48


022:職(176〜200)
(ぱぴこ)植物が育つ職場の窓際を羽虫のように這うタイプ音
(つばめ)そのうちに良くなる未来を信じつつ職業安定所に桜咲く
(本田鈴雨) 職業の欄に<専業主婦>あれば釈然とせぬまま○つけつ
027:既(155〜179)
(TIARA) 既にもう色褪せている言葉よりたったひとつのわたしをあげる
(やや)ひとつずつ既成事実は消し去られまっさらになるスケッチブック
(佐原みつる) 既視感のある人だった柔らかな水音を聞く薄暗がりに
(ワンコ山田) しゃくだけど既成事実と受け入れる口ずさむ歌融けてユニゾン
038:→(127〜151)
(ぷよよん)「→(みぎ)」「↑(うえ)」と白衣が似合うあの人に近づきたくて間違える僕
(草蜉蝣) ←(あっち)→(こっち)へ風ふくままに風見鶏もうすぐここへ手紙くる頃
(遥遥) 順路にはすべて→示されてここでサヨナラここがサヨナラ
(橘 みちよ)→(やじるし)の向きを誰かが変へたのか君のこころに辿りつけない
043:係(104〜128)
(みぎわ) 体重とベルトの穴の関係にほぞを噛みたき真実がある
(tafots) トランクス一枚のまま呑むからに父は蚊に血を吸わせる係
044:わさび(102〜126)
(新野みどり)旅先でわさびソフトを食べながら過ぎ去った恋思い出してる
(tafots) ステーキをわさび醤油か味噌で食う妹流儀を父も真似出す
(sora)ひつそりと泣きたい午後は愛用の鮫皮おろしでわさびをおろす
(萱野芙蓉) 遠くなるばかりの海に疲れてる昼餉の蕎麦にわさびをとかす
052:縄(76〜101)
(磯野カヅオ)梅雨冷えに井の汲みがたき心地せば釣瓶の縄を深く下ろせり
(tafots)図書室の縄文土器のレプリカを毎日撫でていた夏休み
068:秋刀魚(51〜75) 
(フウ) 家路まで歩いて5分団地内どこの夕げか秋刀魚の匂い
(井手蜂子)店先に秋刀魚が並ぶおかあさん東京にだって四季はあります
(原田 町) 頭なく腸(はらわた)も無き冷凍の秋刀魚焼いてる水無月祓い
(春待)「残業」を言い訳にする君待たず私は秋刀魚を一人で食べる
(流水) 諍(いさか)いの長電話して気の抜けた麦酒に冷めた秋刀魚をつつく
069:隅(51〜75)
(ゆき) 校庭の隅の百葉箱の中孵化せぬ夢の卵がねむる
(原田 町) オルツィの『隅の老人』ひさびさに手に取り読めば活字小さき
(冥亭)旱梅雨 法華の寺の一隅に捨て子の如き古りし墓石
085:クリスマス(26〜50)
(ふみまろ)クリスマスディナーがわりの鰤刺に去年の冬がつんときわまる
(羽うさぎ) クリスマスに君にもらったマフラーに縛られながら守られている
(ゆき) クリスマスイヴの宵ゆゑやはらかに白きケーキを購ふてみる
(龍庵)クリスマスだけ弟に嘘をつく思えばそれが始まりだった
086:符(26〜50)
(ふみまろ)厚紙の切符あつめしアルバムの「幸福駅」はうらみのようで
(羽うさぎ)真夜中に沈む音符が地をはねて希望のような音をたててる
(ひいらぎ) 一駅分の切符で君と乗る列車終着駅も見えないままで
(ゆき)五線譜ゆ音符したたり落ちるやう四月の雨はやはらかくふる
(龍庵)君といるそれだけでもう電線にとまった鳩が音符に見える