題詠100首選歌集(その49)

            選歌集・その49

012:達(236〜261)
(こおなまぬがな) 梅雨入りにあわせて雨は降って来ず友達という区切りはつける
(長月ミカ) ひとりきりされど心はあたたかで郵便配達待つ夜の部屋
(つばめ)大願として「合格」の字を書けば赤き達磨が白眼視する
(冬鳥) 花の降る午後です 午後の配達を待つ西の果て岬食堂
(日向奈央)友達のような共犯者のようなあなたのミルクティーが冷たい
017:解(206〜231)
(つばめ)散り際の花を愛でおり人生の問いをひとつも解かざる我が
(フワコ)埋められぬ解答欄のようずっと君の真意を量りかねてる
(緒川景子) いやらしく目で会話などしてみたり 解らないふりなどしてみたり
(宵月冴音)終わらずの夏昼下がり鈴鳴れば解語の花が我をいざなふ
029:くしゃくしゃ(153〜177)
(駒沢直) くしゃくしゃのブラウスわびし朝見れば昨夜の君の酔いの饒舌
(天鈿女聖) ゴミ箱にくしゃくしゃにして捨ててやる 過去も悩みも嫌いな猫背も
(ワンコ山田) そおろりと新しい恋舞い降りてくしゃくしゃの目で探る行間
030:牛(157〜181)
(ぷよよん) 生と死の縮図のごとき闘牛を愛したピカソの白黒の意味
(文) おほき眼に雲の行方をうつしつつ一頭の牛草食みつづく
(酒井景二朗)牛の横に立てば自分の大きさがあやふやになるすがすがしさよ
(sora) 葉の裏に小さき蝸牛を赦しつつかなしみ色の紫陽花は満つ
(TIARA) 決して溶け合わぬ牛乳注ぎ込む 鉛のごとき言葉が積もる
(佐藤羽美)松露葉の町をさまよう紅牛の角から漏れるぬるい夕闇
039:広(129〜153)
(龍庵) 青空は曖昧模糊と広がって僕は生きてる理由を無くす
(兎六) 中学生くらいの少女三人がうわさ話を続ける広場
(emi) 日曜の朝に広がる青空を指さして見たどこまでが青
046:常識(101〜125)
(櫻井ひなた)常識の基準があたしになるような責任感を背負わされてる
(萱野芙蓉) 常識の範囲といへど不可思議な揚げ羽の模様、それが飛ぶこと
(花夢) 死ぬことは悲しいという常識でうやむやになる父の激昂
053:妊娠(79〜103)
(龍庵) まだ遠い台風の位置聞くような気持ちで知った君の妊娠
(水口涼子)妊娠のけだるく眠い幸福よいのちはかくも儚いひかり
(青野ことり) 妊娠を告げられてもうマタニティドレス着たくてそろそろ歩く
(ほたる) 「妊娠」と書かれた箱が笹舟で運ばれている夢を見た朝
054:首(76〜100)
(イマイ) 私達ひとりひとりということを忘れてしまう 首筋を見る
(流水) 思案するときは小首を傾ける癖で今でも笑うだろうか
(五十嵐きよみ)こころもち首をかしげた肖像をながめる同じポーズになって
(ほたる)さみしさを埋めたくて巻く足首のアンクレットに撥ねる泥水
(磯野カヅオ)スラックス濡らす雨脚早まれば右足首の古傷疼く
055:式(76〜101)
(詩月めぐ)あの夏の葬式の朝の空の色どこまでも青 祖母の微笑み
(井手蜂子)タイ古式マッサージ受け筋肉に残るあなたの記憶をほぐす
(ぷよよん)「好きでした」成人式の告白が過去形だから今でも逢える
(龍庵)僕たちの計算式は掛け算で君がいないとゼロでしかない
(じゃみぃ) 一式とだけ書かれた見積書ためらいもなく判押している
(村木美月) あのひとを忘れるために必要な儀式は今宵バスタブの中
(イマイ) 空はただ横たわっているだけなのか挙式の日みた高い青空
(青野ことり) あのひとの結婚式のために撮るビデオレターに笑顔ではしゃぐ
087:気分(26〜50)
(行方祐美)寒々と四月の終りを吹き荒れて風という名の天の気分屋
(ひいらぎ)雲眺め気分転換してるって言い聞かせてる予定のない日
(KARI-RING) 贈るあてのない花買った母の日は陽気な歌だけ聞きたい気分