題詠100首選歌集(その51)

            選歌集・その51


008:飾(254〜279)
(勺 禰子) かたくなな心を飾るものもない立ちたるままの血を抱きしめて
(天鈿女聖)着飾って行ける大人になりたくてダッフルコートを羽織りたい夏
(桑原憂太郎) 面談室で我と向かひし女生徒が急ごしらえの言葉を飾る
018:格差(211〜236)
(フワコ) 時間差で生まれてきたよね二人にも格差があるとすればの話
(斗南まこと) 格差とは感じる側が作るもの 君の笑顔がただ妬ましい
031:てっぺん(152〜176)
(酒井景二朗) 悲しみの殘りは風に任せようと給水塔のてつぺんに立つ
(紫月雲)てっぺんは何処と知らず登るごとひと日の愛をあたためている
033:冠(153〜177)
(やや)つめくさの冠を編む肩越しにとても孤独な夏風が吹く
(佐原みつる)たのしいことを思い出せない週末の白詰草でつくる冠
(本田鈴雨)冠を載すればほのかゑまひたる姉のひひなは姉に似たりき
049:ソムリエ(103〜127)
(月下燕) 曖昧な笑顔のままでソムリエはどっちつかずな僕らを見渡す
(美木) 長身のソムリエールの指ばかり見てるあなたを見てばかりいる
(みぎわ)パティシエとソムリエの違ひ聞きながらステーキランチ胃に持て余す
(花夢) 大袈裟なままごとみたいソムリエに似た葬儀屋が凜と佇む
(佐藤羽美) ソムリエの所作であなたに放られておりぬ波打ち際のざわめき
057:縁(76〜100)
(五十嵐きよみ)ハンカチの白いレースの縁取りに似た美辞麗句ばかり言う人
(イマイ)日曜の西日傾き縁側をきみは欲しがる 夏は来ている
(青野ことり)初めての浴衣の帯が気になって それだけだった縁日の夜
072:瀬戸(52〜76)
(新田瑛) うつせみの恋は霧消の瀬戸際にありて小さく息を吸い込む
(原田 町)なんとなく体に効くかと糠床に「瀬戸のあらじお」たっぷり混ぜる
(流水)瀬戸物を妻が包みし新聞を一枚一枚懐かしく読む
088:編(26〜51)
(行方祐美)透かし編みのストール風に展くとき藤はさららとひかりに零る
(ふみまろ) 誰がために編まれしものか朝冷えの地蔵堂には毛糸の帽子
(ぽたぽん) リリアンの編み方娘に教えつつ三十年の月日を思う
(羽うさぎ)暖色の編み込み模様にするためにふたりで染めるやわらかな糸
(ひいらぎ)何回も編集してはまた消してメール画面を彷徨っている
(新井蜜)編み上げの茶色の靴を探してるあなたに会った風吹く五月
(ゆき)今朝がたの雨の雫を編みこみて銀に光れりささがにの巣は
090:長(26〜51)
(マトイテイ) 息詰まる長い一日乗り越えて安堵という名の弱さ吐き出す
(畠山拓郎) 長という役にはとんと縁がなくぶり街道は改名ばかり
(はこべ)さくら散り紫陽花を待つ窓ぎわで すこし長めにあなたを思う
野州夏至に咲くあさがほ一輪軒下のゴム長靴はねこが倒しぬ
(ゆき)今し虹南の空に消ゆるらし長くかなしき夢はおはりぬ
092:夕焼け(26〜50)
(行方祐美)夕焼けの彩に熟れたる宮崎の菴羅は皿に灯りておりぬ
(ふみまろ)夕焼けに抱かれし町の屋根ひくく昭和のままのたばこ店きゆ
(羽うさぎ) オレンジの車体を揺らしバスは行く夕焼けの裾をひきずりながら
(ゆき)背の高き夕焼け似あふをのこあり骨ばる肩に落ちゆく夕日