題詠100首選歌集(その52)

              選歌集・その52

014:煮(228〜252)
(短歌サミット2009.はづき生) 真っ暗な部屋に帰ってくるたびに煮物の音の幻聴がする
(椎名時慈) たっぷりと食べて話した鍋の底触れたくなかった話題煮詰まる
(丸山程)いつもより煮物の味が濃いけれど何があったか聞かないでおく
015:型(230〜254)
(天鈿女聖)原型をとどめないほど顔中に嫌い嫌いがあふれる地下鉄
(kei)日焼けしたランニングシャツの少年が飛び出してきそうな模型店
(桑原憂太郎)保護者からの抗議の電話に担任が鋳型にはめた回答をせり
(睡蓮。)七夕に星型コロッケ作れずに揚げるかぼちゃをそれっぽく切る
023:シャツ(180〜205)
(ワンコ山田)つなげない手が覚えてる恋人の裾のあたりのシャツの手触り
(つばめ) マタニティシャツ木漏れ日にまぶた閉じ思考停止も幸せである
月夜野兎) 晴れ渡る洗濯日和に風に舞う空になりたい青色のシャツ
025:氷(176〜200)
(ワンコ山田)うっかりと触れたあなたは凍てついて製氷皿に囚われの指
(帯一鐘信)みずうみに氷ができる瞬間がわからぬままにまた次の冬
(Re:)カランって氷が泣くのでひとりきりだということに気付き始めた
(お気楽堂)客途切れふっと一息つく頃にガラガラガラと鳴る製氷機
042:クリック(126〜150)
(遥遥)クリックで伝わる想いありますか漂う言葉ひろい集める
(sora)通わないふたつの心は永遠にタイミングの合わないダブルクリック
(花夢)クリックをするたび増えるウイルスのように眠気が広がってゆく
(やや) これ以上脱げるものなどもうなくてクリックを待つ真夏日の朝
(すいこ) クリックを押すたび流れる決断を集めて逢いに行く君の家
050:災(103〜130)
(花夢) この家に遺されている正義っていうものこそが災いなのに
(emi)災いの種まきながら走る子を通せんぼする向日葵の道
(すいこ) 一瞬の会話のなかの空白に災いが降る時期をうかがう
058:魔法(76〜100)
(ぷよよん)水色の遣らずの雨が悪戯に時間をのばす魔法をかける
(流水) 温もりがまだ残ってる魔法瓶寂しいものは優しいものだ
(こすぎ) 夏時雨 魔法の時間はもう終わり 日記帳からこぼれた昨日
075:おまけ(51〜75)
(ゆき)こぶだしとかつをだしとのあはせだしおまけにあなたひとのものだし
(七十路ばば独り言)兄姉と大きく隔たる歳の差に我おまけかと僻みし日もあり
(髭彦) 残る日をおまけといつか思ふ時来るやも知れず深く生きれば
091:冬(26〜50)
(マトイテイ)冬色の風に吹かれていたかった微笑みなんかは似合わないから
(理阿弥)サンプルの肉の薄さに忠実なヒレカツ弁当ぶらさげて冬
陸王)半袖の服一枚でよく冷えたびぃる一気に呷っても冬
(羽うさぎ) 冬ざれた街にあかりを灯すように赤いコートで背筋をのばす
(ひいらぎ) 冬に会い冬にさよなら忘れてもいいようなことばかり残して
(すいこ)くたびれた冬用ブーツに土いれて花でも植えるつもりの霜月
094:彼方(26〜50)
(マトイテイ)最果てと名付けし彼方に旅立ちて優しさなんて今はいらない
(佐藤紀子)今もなお彼方の海の底深く竜宮城があると聞きたり(浦島太郎物語)
(羽うさぎ)彼方には波のくだける音のして夜には海をおさえきれない
(新井蜜)彼方から夕暮れの野を越えてきて見下ろしている目のようなもの