題詠100首選歌集(その53)

 西日本ほどではないが、このところ東京も天候不安定な状態が続いている。今日は久々にまずまずの晴れ模様だ。あまり暑いのも敵わないが、やはり夏晴れの照りつけがないと物足りない気がするのも事実だ。
 最終題の100は、投稿数が40台後半まで進んだものの、なかなか50という第2巡目の選歌まで届かない。明日あたりにはどうやら第2巡目に届くのではないかと、楽しみにしている。

      選歌集・その53

005:調(290〜314)
(つばめ)中学の教師の書きし調査書に「従順」二字の少年時代
(椎名時慈)真実は怖いことだと知りながら調べてしまう 雨が近づく
(水都 歩)あの父が風呂場で歌うその歌の調子っ外れがなぜか嬉しい
(みかみかりん) 風は草を草は花弁をさわさわとのどかに急かす調べをたてて
019:ノート(203〜227)
(ちりピ)新品のノートに歌をひとつだけ書きとめ雨を探しにゆこう.
(宵月冴音) 切れ端に恋文書きし夏の日の残れるノートをめくる秋風
(羽根弥生)全力で借りたノートを全力で抱きしめ走る 夏がはじまる
(水風抱月)会いたくて恋をしたくて詩(うた)を書く 十年遅れの青春ノート
(桑原憂太郎)木曜の6時間目の気だるさによりかかつてる『心のノート』
020:貧(202〜226)
(ちりピ) 貧しさの染みついた手に一燐の光膨らみ 蛍飛び去る
(末松さくや)優しくてきれいで貧しいヒロインが絶滅危惧種の指定を受けた
(斗南まこと)貧しさは想像力に現れる消しても増える迷惑メール
024:天ぷら(178〜202)
(珠弾)連勝が途切れるまでは昼食のメニュー変わらず天ぷらうどん
(美久月 陽)塗り箸でかかげた海老の天ぷらをつゆにひたして遠雷を聴く
(長月ミカ) 惣菜の天ぷら買ひし夕暮れにふと恋ひしくなる田舎の我が家
051:言い訳(102〜126)
石畑由紀子) 言い訳をされるならまだ大丈夫 わらう彼女の目尻の深さ
(萱野芙蓉)言ひ訳のうは澄みだけを聞き流しアクアリウムにそよがせる耳
(すいこ)言い訳より軽い涙がおちていく部屋の外ではまだ雨の音
(わらじ虫) 言い訳とキスが上手になっていた赤の他人じゃないだけのひと
059:済(76〜100)
(ぷよよん) 決済のできない恋がふたつほど畳の下に敷かれています
(五十嵐きよみ)うやむやに済ませてもいい思いきり西瓜の種を遠くへ飛ばす
(イマイ) 後悔はしていないよと風のなか済んだことだけ話し続ける
(月下燕) 「もう済んだことですから」とやわらかなうなじが僕の逡巡を斬る
095:卓(26〜50)
(行方祐美)卓上に濡れるひかりは立ちにけり牛乳瓶は昭和の光
(伊藤夏人)残された君の卓上カレンダーめくられないまま季節は巡る
(ゆき)卓見と思へど素直にうべなへず目をそらしつつ閉づる携帯
(新井蜜)あらかじめ書かれてあった卓上の今日の日記をなぞる一日
096:マイナス(26〜51)
(羽うさぎ)マイナスに傾くこころの天秤をムーンサルトでプラスに変える
野州)マイナスを持ち寄る夜のパーティーのメインディッシュは麻婆茄子なり
(龍庵)マイナスとプラス思考の中間に浮かんだ雲でむさぼるひる寝
(ひいらぎ)思い切りシャワーを出して悲しみをマイナスイオンに変えてゆく朝
(こうめ)問われれば唇きゅっとマイナスに結んで少女はその名を告げず
098:電気(26〜50)
(ふみまろ)不覚にもさめてしまった五時半の電気ポットにきじばとが啼く
(ゆき) 風神と雷神ならば雷神にくみすと言へる電気技術者
099:戻(26〜50)
(はこべ) 戻るべき距離はかりおる能の足たびの白さが映る舞台に
(のびのび)戻りたくなればいつでも戻れると思える場所があるという幸せ
(野州) 恋ねこのさまよひながら戻り来て眼は反らしつつ餌をむさぼる
(新井蜜) 繰り返し波の戻つてゆくところ足下の砂を引きさらひつつ