題詠100首選歌集(その54)

 このところはっきりしない天気が続く。今日も雨催いの曇り空で、そのくせ蒸し暑い。原爆忌の8月6日も、雨催いでは今ひとつ実感が湧かない。第100の「好」がやっと50題に達して、2巡目の選歌ができた。


 <ご存じない方のために、時折書いている注釈>
 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して5年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。

          
        
         選歌集・その54


002:一日(302〜326)
(わらじ虫)君と僕 絵のない額と額のない絵をぶら下げて歩く一日
(川鉄ネオン)揚げたてのコロッケ頬張り上々の一日である夕焼け小焼け
(ちょろ玉) 君がいない席をチラチラ繰り返し見ているだけで終わる一日
009:ふわふわ(254〜278)
(椎名時慈) 握ってた手を離すからふわふわと自由にお行き 風のあるうち
(tafots) 気おくれも嫉妬も捨ててふわふわと形容される女を褒める
(祥) 黒猫に夜を託してふわふわとレンドルミンにとけていく僕
(月原真幸)しあわせにできる自信はないけれど猫のしっぽはふわふわだった
016:Uターン(231〜256)
(わらじ虫) 幸運の女神はいつもUターンばかり練習してるって説
(みち。) Uターンできずに越えてきた夜が育ててくれた強さだと知る
021:くちばし(202〜227)
(葉月きらら) 好きなのに嫌いだなんてくちばしる 言葉は心 裏切ってゆく
(Re:) くちばしを大きくあけて餌を待つ燕の雛に見下ろされてる
(水風抱月) 風乞うと反らすくちばし艶(つや)めかし 濡れて地を撲つ白磁の翼
(桑原憂太郎) ケータイを操る生徒のくちばしがあちらこちらではさまつてゐる
(ちりピ)くちばしをみがいてまとう いつかくるあなたに嘘をつくだろう日を.
022:職(201〜226)
(やすまる)入梅(ついり)晴れ職業欄の空白に雨垂れの音は涼しく踊る
(兵庫ユカ)これは前の職場のときにコンビニで買ったハンカチだとまた思う
(桑原憂太郎)教職が天職と言ふ同僚の背に積み上がるリスクを測る
026:コンビニ(179〜203)
(Re:)チャイム押す前の小さなドキドキを隠して握るコンビニ袋
(つばめ)コンビニの書棚で予言されている次期総裁と夏のトレンド
(兵庫ユカ) 一軒もコンビニがないところまで巻き戻したら壊れる記憶
(如月綾) この星にひとりきりではないのだと告げる午前3時のコンビニ
034:序(151〜175)
(佐藤羽美)順序よく遮光してゆくわたくしにどの音階で彼は答える
(やや)最終の電車見送りゆっくりと序章のページをひらく十六夜
(佐原みつる) 薦められ手に取ることにした本の序章に引用された詩のこと
(珠弾) 序章(プロローグ)的なことばをつらつらと いつになっても飛べないアヒル
(笹本奈緒) プリクラも燃やしてみればあっけなく それは序章のはじまりのもと
(ワンコ山田)愛された記憶はとぎれとぎれでも忘れな草はさそり型花序
(本田鈴雨) あさがほのつるのゆくへを案じつつ序詞(じょことば)のごとき話ききをり
093:鼻(27〜51)
(行方祐美) 鼻濁音たっぷり含む曇り天われは君より心が薄し
(ふみまろ)鼻先がふれあう距離の僕たちの会話は雨が隠してくれる
097:断(26〜50)
(行方祐美) 雨に濡れ緑に濡れつわが道の横断歩道今日も風の音
(伊藤夏人) 仕事より君の事だけ考えて断りきれない昇進試験
(のびのび) 断言を避けて「かも」とか「みたいな」で姑息にわたる吾の処世術
(野州) 堅茹での男はいつも濡れてゆく差しかけられた傘を断る
(こうめ)イチゴジャム朝日をまとい載せられたパン噛みちぎる決断の朝
100:好(26〜50)
(羽うさぎ)ゆるやかなこころの傾斜たどりゆき たどりついたら「好き」と言いたい
(新井蜜)好敵手だつたお前をもう一度月夜に探してみるかくれんぼ