人を見れば・・・(スペース・マガジン8月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。


    [愚想管見] 人を見れば・・・                   西中眞二郎

 
 「人を見れば泥棒と思え」、古くからある言葉だが、この言葉がいよいよ現実味を増して来た。「泥棒」くらいならまだ罪が軽い方で、どうかすると生命にかかわる危険性もないとは言えない御時世だ。以前我が家の近くの道路に、「知らない人に声を掛けられたら、キャーと叫ぼう」という大きな看板が立っていた時期があった。これではうっかり通り掛かりの子供に道を聞くこともできない。このところの世相からすると理解できないではないが、それにしてもこの看板は行き過ぎではないか。
 振り込め詐欺も依然として横行しているようだ。ニュースとして聞いている分には、「なぜそんな単純な詐欺に引っ掛かるのか」と不思議に感じるのだが、相手は巧妙なプロであり、「自分は大丈夫だ」と思っている人に限って、かえって引っ掛かりやすいのだということを聞いた記憶もある。まさかとは思うが、案外そんなものなのかも知れない。
 代金引換えの宅配便という詐欺もあるのだそうだ。身に覚えのない品物が送られて来れば、代金を払って受け取るということはなさそうにも思うが、もしそれが、息子や娘あてのものだったらどうだろう。金額にもよるが、「あるいは息子が頼んだのかも知れない」と思って、受け取ってしまうこともありそうな気がする。
 

 私自身が日夜体験しているのが、パソコンの迷惑メールである。いわゆる「出逢い系」サイトをはじめとする迷惑メールが毎日100通くらい来る。それが嫌でメールアドレスを変えたという知人もいるが、いずれ何かの機会に新しいアドレスが流出して、また同じことの蒸し返しになるのではあるまいか。メールの中身は大同小異だが、多くは女性からの誘いである。しかもお小遣いを呉れるというありがたい話である。そもそも、本当にそんなうまい「出逢い」があるのかどうか。もし本当だとすれば、リッチでエッチな女性が多数存在するということになるが、まさかそうとも思えない。そのメールに応答したらどうなるのか、「真理探求」のために一度やってみたいという気がしないでもないが、煩わしいのでまだやってみたことはない。
 ところで、それが詐欺なのだとして、一体どうやって私からお金を巻き上げるのだろうか。まさか私の銀行口座から自動的に預金が引き落とされるということもないだろうが、請求書でも来るのだろうか。もしそのような請求書が来ても、払わなければ良いのだと思う。中途半端な対応をすると結果的に深入りしてしまう危険性があり、下手に対応せずに無視するのが一番賢明だというのが定説のようだ。放置しておいても、よもや訴訟を起こされることもあるまいし、仮に訴訟になったとしてもこちらが敗けることもないだろう。しかし、「請求書」、「裁判」といった言葉だけで脅えてしまって、素直に金を払う人も何人かに一人はいるのかも知れないし、それで十分商売になるのかも知れない。

 詐欺師をはじめとする犯罪者は進化している。被害者はあまり進化していない。そうかと言って、「人を見れば泥棒と思え」という金言を金科玉条とするのも淋しい話ではある。(スペース・マガジン8月号所収)