題詠100首選歌集(その55)

 夜8時前にちょっとした地震があった。怖いというほどではないが、少々不安を感じたのも正直なところだ。震源は南の方だったようだが、東京23区をはじめ、震度4の地域は、北の方に随分広がっている。今日は各地とも激しい雨だったようで、東京も今夜から明日にかけて風雨が激しくなるとのこと。異常気象というのか、地球が何か駄々をこねているのか・・・。


           選歌集・その55

027:既(180〜204)
月夜野兎)もう既に忘れたはずの古い夢そっと取り出し磨いてみる夜
(長月ミカ) 既製服買えぬ我への仕送りに母手作りのワンピース来る
028:透明(180〜206)
(桶田 沙美)猫の手があたしの頬を打った朝透明過ぎて見えない悪意
(月原真幸)透明なたまごのなかで誰ひとり振り向かないのをたしかめている
(千坂麻緒)すくったら透明でした膨大な青を湛えた夏だったのに
029:くしゃくしゃ(178〜202)
(しおり) くしゃくしゃに乱れた髪に櫛を入れメスより母に戻りゆく午後
(本田鈴雨)くしやくしやの雄蕊ひらける合歓のはな風うすべにに梳かしゆく午後
035:ロンドン(152〜176)
(ワンコ山田)ロンドンへ飛ぶ君の傘残されて夏草を刈る造船所跡地
(本田鈴雨) ロンドンは小さき町といふときのいもうと眸に恋を帯びるも
037:藤(152〜176)
(やすまる) 晩春のバスを降りれば藤花(ふじばな)のめまいのような香に招かれる
041:越(131〜155)
(キャサリン三越のライオンの手の冷たさを確かめたくて手袋をとる
(Re:) レンズ越しに見ていた空に手を伸ばし鳥になるためシャッターを切る
(駒沢直) 日曜の銀座に立って三越のライオン目線で見る人の群れ
052:縄(102〜126)
(藤野唯)縄跳びをしながらずっと考えた夕暮れ ともだちってなんだろう
(風天のぼ) 冬の夜の波にのまれるここちして大縄跳びにまだ飛び込めぬ
073:マスク(51〜75)
(蓮野 唯)マスクした瀬戸の花嫁笑えないフェーズ5(ファイブ)のインフルエンザ
(藻上旅人) 夕闇の中街灯はひとつだけマスクの中で咳ばらいする
(原田 町)大量にマスク買いだめいつか来るパンデミックの気休めとする
(イマイ)使い捨てマスクをかける人ばかり静かな白に閉ざされている
(かりやす)脂性はオイリー肌と言ひかへてダマスクローズの化粧水浴ぶ
077:屑(52〜76)
(龍庵)真っ直ぐに君に当たって砕け散る光の屑を拾い集める
(西野明日香)白々と夜明けは来たり君の居ぬベッドに木屑のごとくが在りて
(春待)大鋸屑の匂いは吾を抱きくれぬ記憶の中の祖父と鉋と
079:恥(51〜75)
(龍庵)目を閉じて耳に心を当ててみる愛とはいつも恥ずかしい音
(秋月あまね)生きることすべてが恥とおもう夜に殺して廻るネットの痕跡
(新田瑛) 平日の水族館に独り居て恥ずべきことのある昼下がり
(藻上旅人)満員で手をとることの恥ずかしさ薄らいでゆく午後5時の駅