題詠100首選歌集(その57)

           選歌集・その57


044:わさび(127〜151)
(橘 みちよ)休日の前夜たのしも「わさび味かきのたね」食む今夜(こよひ)つまみに
(わらじ虫)わさび入りシュークリームをくちいっぱい頬張りながら告白される
(すいこ) わさび抜きカリフォルニアロールと上にぎり肩をよせあう異国の寿司屋
045:幕(126〜152)
(萱野芙蓉) 朱の記憶、夕陽の記憶あるらむか幕張の地下這ふ芒根に
(花夢) お芝居みたいに嘆かれ舞台幕のむこうでぶれる祖父の生前
(佐藤羽美) 開幕のベルは優しく如月のふたりの耳を湿らせてゆく
(穂ノ木芽央)鯨幕春一番に乱されて若後家の裾嘆く間も無し
(Re:)暗幕が包んだ視聴覚室で誰も知らない君を見ていた
(駒沢直)幕切れと呼べる何かがあったかも思い出せない僕らの別れ
(一夜) 我が夏の幕は閉じたり バラードに祭りの後の寂しさ重ね
046:常識(126〜150)
(bubbles-goto)少しずつ違う常識縒り合わせ親族たちは通夜に集うも
(松原なぎ)常識のカタチの日焼け線引きもしないでぜんぶ愛してあげる
053:妊娠(104〜128)
(都季) 妊娠とか結婚だとか程遠くトイカメラ持って海に出かける
(美木)妊娠したかもと言ったら笑ってた 違ったと言ったらもっと笑った
061:ピンク(79〜103)
(五十嵐きよみ)気晴らしに買ってきたまま口紅のピンクはとうに流行遅れ
(イマイ) 変わること変わらないことありそうでうすいピンクの表紙を見やる
(萱野芙蓉) シェルピンクに従姉の爪が染まる夏、海の泡つてかなしいものか
(木下一)ピンク色している君のパンティが桜前線教えてくれた
065:選挙(76〜100)
(nnote)ひらがながふえてゆく街ほんとうの名前失う選挙ポスター
(五十嵐きよみ) 録画しておいた映画のなかごろにひと月遅れの選挙速報
(祢莉)失恋し選挙で落選した人とタピオカすする午後の原宿
(佐藤羽美) 霊園のぬるい木陰の昼下がり無人選挙カーがまどろむ
074:肩(52〜76)
(井手蜂子) 真直ぐに肩で揃えた黒髪をいつかこの手で切り落とすとき
(西野明日香) 触れることなき肩多くこの世には計り知れない人生がある
(藻上旅人) 振り返る度にかなしみ膨らんで奴の肩越し君をみている
(原田 町) 肩凝りをこぼせば腰痛うったえてトクホン貼りあう偕老同穴
(かりやす)首飾りもスカートも回るゆがみ持つわれは右肩下げて立ちたり
(萱野芙蓉) 結びきれず空が離した水滴があなたの肩を濡らす八月
076:住(51〜75)
(髭彦) 愚狂なるわれら選びぬ階段の多き家をば終の住処に
(原田 町)三十年住みて余所ものこの在の祭囃子が風に聴こゆる
(春待)キーワード「愛知」「向日葵」「花畑」君の住んでる町の手掛かり
078:アンコール(51〜75)
(新田瑛) アンコールの手拍子徐々に速くなり急かされるよう足を踏み出す
(冥亭)いにしえは森か寺院かいざ知らず黴は生(お)いぬるアンコールワット
(原田 町) アンコールにこたえ青春もういちど真夏の夜の夢を見ていた
(萱野芙蓉) アンコール終わつた後の行き場無さわたしはわたしにかへりたくない
080:午後(51〜75)
(たざわよしなお) 恋人と別れた後の肉体はいま奏でたき「牧神の午後」
(中村成志) 歓声が駆け足になり(もう午後か)遮光カーテンから漏れる音
(さかいたつろう) 午前より午後って感じが否めなくなってきている27才
(新田瑛)如月の陽射やさしく僕たちを釘付けにする午後の教室
(富田林薫)午後、風になりましょう。よろしければ夏の麦わら帽子飛ばして
(七十路ばば独り言)梅雨開けて茂る夏草刈りし午後四肢投げ出して午睡貪る
(藻上旅人) 午後3時地下街の夕は早く来るはずむ会話に射す薄明かり
(原田 町) 発言の機会なきまま会議すみ午後の日差しの街中に出る