題詠100首選歌集(その58)

        選歌集・その58


031:てっぺん(177〜202)
(ちりピ)鳥がすむ廃屋ビルのてっぺんで壊れたラジオがまだ歌ってる.
(しおり) 砂山のてっぺんに立つ勇気など持たず半分諦めた恋
032:世界(176〜200)
(千坂麻緒) 水底で世界のひかりをみていたら笑う笑ったあれは夏の日
(遠藤しなもん)世界中平和であればいいなあと思っただけの朝のコーヒー
(空色ぴりか)ピッチャーはすっくりと立つマウンドから世界のすべてを見おろすように
064:宮(76〜100)
(イマイ) 「宇都宮」と書くことに慣れ三枚の淡い色した切手をなめる
(萱野芙蓉) 夏の日は薄きころもに包まれた女一宮(にょいちのみや)の乳ふさおもへ
(ほたる) お宮参りのちいさな命に連鎖する乳白色の甘い追憶
066:角(76〜100)
(流水)紙マッチ擦(す)って月日を燃やす夜少し残した角瓶空ける
(村木美月) 見送りはこの角どまり待っているひとがいるからお帰りなさい
(佐藤羽美)この家のこの部屋のこの壁のこの角からとろりと溶けてゆく昼
(酒井景二朗)どこで吹く角笛なのか 自轉車を停めた途端に秋が來てゐた
067:フルート(76〜100)
(nnote)ゆめだとかしょうらいだとか抽斗に忘れ去られた銀のフルート
(イマイ) フルートの音も光もまぶしくて頬杖ついて外を見ていた
(萱野芙蓉)フルートが意外におもい楽器だと気づけばひづみ出す秋の膝
(藤野唯)フルートが音楽室から聞こえててあの日好きって言いそうだった
(ほたる) 「フルートにあたるひかりが眩しくて・・・」潤む瞳の言い訳にする
069:隅(76〜100) 
(村木美月)君にしか見せてはいない真心をたたんでしまう部屋の片隅
(佐藤羽美) 黒板の隅のへのへのもへじまでしろく滲める春の教室
081:早(51〜76)
(中村成志) 早すぎるとは思わないから君の手を両掌でつつみ胸に抱いた
(七十路ばば独り言)山間の田の面に早も水満ちて風が誘(いざ)う光のさざ波
(nnote) 早朝の街に降り積むつぶやきは月の中へと鳥が運んだ
082:源(51〜75)
(西野明日香)つれなさの増し来る土手をゆく人に源氏蛍は淡く光れり
(藻上旅人) かの里は今宵光のアルペッジョ 源氏蛍に身を任せつつ
(髭彦) 源平の盛衰あれど永らへし蛍滅びて夏闇深し
(冥亭) 石麿に物は申さず二の丑の蒲焼き喰らう平賀源内
(原田 町)電源を入れっぱなしの器具ふえて真っ暗闇になれぬわが部屋
083:憂鬱(51〜76)
(EXY) 憂鬱な 気分が襲う 熱帯夜 眠れぬ夜が 拍車をかける
(詩月めぐ) 画面越し 君の言葉を見るたびに甦る過去 夜の憂鬱
(西野明日香)憂鬱を抱える少女の指先で折りつくされる鶴のあとさき
(七十路ばば独り言)戻り梅雨あめ降り続けば憂鬱とう虫の卵がまたも孵化する
(髭彦)読みうれど書くことできぬ文字ありて変はることなし薔薇と憂鬱
ウクレレ) 憂鬱な梅雨が明けたる朝 蚊取り線香の灰ポトリと落ちる
084:河(51〜76)
(tafots) 古河駅のベンチの座布団しんしんと露をふくんで冷えてゆく朝
(こうめ)輝きは波に洗はれ秘めるのみ 硝子は別れのまま河にゐて
(髭彦) 無知なればメナムが河の意味なるを知らず想ひきメナムのほとりを
(原田 町)葛和田とう利根の河岸あり亡き父の故郷へ小舟で渡りし記憶
(藤野唯)みずからの心のせまさを知っていてさらさらとゆく河をみている