総選挙雑感

 総選挙も終わった。新聞その他の予想通り、民主党の圧勝という結果になったが、まずは常識的な結果だと言っても良かろう。先の「郵政選挙」の際の自民党圧勝には、かなりの「危機感」を抱いたのだが、今回の結果にはそのような危機感は感じない。当時の小泉自民党に比較して、「鳩山民主党」には、思想的・政策的に危険な要素が少ないということが、私にとっての違いかと思う。


 それはそれとして、今回の結果について感じた印象を、思い付くままに、順不同でいくつか羅列してみよう。


1 何と言っても、小選挙区制の怖さである。1票でも上回れば当選するという1人区の怖さである。先の郵政選挙と比較して、政党別の得票数に地滑り的な変動があったわけでもないようだが、それが地滑り的な結果につながるということの怖さである。ある意味では世論に敏感な優れた制度だと言えるのかもしれないが、それが極端に振れることの不安定さも内在している。
 小選挙区制のもう一つの特色は、政党の力が強く出るということである。大政党の支持を得ていない候補者が小選挙区でトップに出るということは、極めてむずかしいことだと思う。このことは、政党のバックアップのない新人の当選を極めて困難にする。定員5人の中選挙区であれば、無所属の新人でも第5位に滑り込める可能性は比較的高かった。現にそうやって政治の場に登場して来た議員も結構な数に上るのではないか。ところが、小選挙区の場合はそうは行かない。それに、比例枠については、そもそも無所属の出番は全くない。
 その関連で言えば、公認権を握る政党の執行部の力が大きく作用することになるし、この前の郵政選挙の「刺客」騒ぎなどはその典型だったと思われる。
 これらはいずれも制度立案時から予想された事柄である。それをどう評価するかについては意見の分かれるところだろうし、現に、当時の国会の多数派はそれをプラスに評価したのだろうが、私としては、むしろ以前の中選挙区制の方が穏当な制度だったような気がする。


2 民主党政権が果たしてうまく機能するのかどうか。不安材料の種は尽きない。
 そのマニフェストを見ても、定見のないバラマキが多いように思われてならない。例えば、「高速道路無料化」は、環境対策、経済効率、多数の国民の利便などの総合的な交通体系から見れば、「百害あって一利なし」だと思う。
 「既存の組織を通さない直接給付」という考え方も、基本的には正しい方向だとは思うが、効率性の面では問題があるかも知れないし、また「こども手当」の場合を見れば、直接給付では、それがこどものために使われる保証はない。むしろ、例えば授業料や給食費の補助といった形で、学校に渡す方が、その成果は確実なものになるのではないか。
 より基本的には、財源の問題である。無駄の排除が必要なことは当然だが、それでカバーできる量は、不足財源に比べれば微々たるものであり、財源問題に正面切って取り組むべきことは当然だと思う。なお、税制面では、配偶者扶養控除の廃止を掲げているようだが、税制面でやるべきことは、まず所得税の累進税率の強化であり、株式関係所得の課税の正常化であり、相続税基礎控除の引下げだと思う。「持てる者」からの課税強化がなぜマニフェストに掲げられなかったのか、大いに疑問を感じている。それらと同時に、消費税の増税も避けては通れない道だと思う。
 話は戻る。いったんマニフェストに掲げた以上、それを安易に撤回することもむずかしいだろうが、現実に政権の座についた後には、フランクに見直すべきものも多いのではないか。


3 選挙前の世論調査によれば、「民主党を支持する」としながらも、「そのマニフェストには異論がある」という回答が随分多かったようだ。「この際政権交替が望ましいが、それは現在の与党に嫌気がさしたからで、必ずしも民主党を評価しているわけではない」という層が多いのではないか。幸い、選挙後の鳩山代表の発言はかなり謙虚なものであり、その謙虚さに期待したいところだ。
 なお、選挙に当たり、「保守層」を繋ぎ留めるためか麻生総裁をはじめ自民党の政見は、憲法問題をはじめかなり右寄りのものになった。私の感覚で言えば、小泉さん、安倍さんと危険性を感じる政権が続いた後、福田さんでかなり正常に戻ったと思っていたのだが、今回の選挙でまたまた危険性を感じる動きが出て来たことも、自民党に逆にマイナスに働いた面もあったのではないか。ついでに言えば、このところ「無責任」の典型のように見えた「麻生自民党」が、「責任力」を前面に出したことは、一種のパロディーのようにすら見えた。
 それに何と言っても大きかったのが、選挙民の「反省」ではないか。先の総選挙で小泉劇場に酔いしれて、「この国を壊す」ことの片棒を担ぎ、「賢明でない選択をした」という「反省」の念を抱いていた選挙民が多かったのではないかと思うし、その思いが雪崩を打って民主党に流れて行ったという面があるのではないか。


4 それにしても民主党政権も前途多難である。旧社会党から旧自民党まで、それに全く色の付いていない未知数の多数の新人まで、幅広い議員を網羅した民主党が、果たして一枚岩になれるのかどうかというのが、最大の不安材料だ。野党のときにはギリギリの選択を迫られる機会は少なかっただろうが、政権与党となればそうは行かない。もっとも顕著なのは防衛問題で、果たして民主党議員の最大公約数がまとめられるのかどうか、疑問なしとしない。
 至って無責任な予言をすれば、実際に政権を執ってみればさまざまなほころびが出て来て、「こんなはずではなかった」という期待はずれから、次の参議院選挙では自民党が巻き返し、政治はいよいよ混迷するということになる公算が大きいような気がする。それが政党再編成につながるのかどうか、それは私には全く判らない。
 決して民主党政権の船出にケチをつけようという積りではなく、新政権が諸般の問題に良識を持って、謙虚かつ柔軟に対応して、予想以上に健闘することを期待したいという気持は、十分持っている積りである。