題詠100首選歌集(その59)

 昨日あたりからすっかり秋めいて来て、今朝方などは。これまでの夏掛けではうすら寒いくらいだった。もっとも、今日は結構気温が上っているようだ。こうして次第に秋に入って行くのだろう。



         選歌集・その59


006:水玉(287〜311)
(稚春)水玉のブラウスを着る金曜に隠し切れないその後の予定
(春畑 茜) さみどりの水玉模様のエコ袋ちひさくたたみ子に持たせたり
今泉洋子)ほんのりと乙女に戻る心地して水玉の服纏ふ初秋(はつあき)
(近藤かすみ) ガラス窓に貼りつく水玉それぞれが雨あがりの空映してをりぬ
039:広(154〜178)
(TIARA) サンダルを片方なくした海岸で広告みたいな青に出会った
(本田鈴雨) オホーツクに目の慣れてのちエゾキスゲ咲ける広野に立ちつくしたり
(ワンコ山田) 危険物 わたしを詰めた広口のビンは埃と棚の隅っこ
(田中彼方) 夏空が物干し竿にぶらさがる。染めなおされて、広重の青。
040:すみれ(154〜178)
(駒沢直)タカラヅカすみれの花の凛として惹かれる訳はわが胸にあり
(岡本雅哉)すみれ色が濃くなる窓ガラスのうえを星は流れて朝露になる
(斗南まこと) ほの淡くすみれの色に夜は明ける知りたくなかったさみしさがある
047:警(129〜154)
(松原なぎ) 警めというか誓いの顔をして腕にかみつく蚊も熱帯夜
(本田鈴雨)ガソリンはあともう少し 警告の点滅にわが鼓動和しゆく 
048:逢(128〜152)
(田中彼方) 長ねぎがレジ袋から飛び出している夜行バス。逢いに来ちゃった。
(駒沢直)「逢う」という字面ときめくやましさに新幹線はスピードを増す
(しおり)逢いたくてでも逢えなくてゆらゆらと心のシーソー揺らす夕暮
049:ソムリエ(129〜153)
(Re:)ソムリエが選んでくれたワインにも痛みが溶けこんじゃいそうな夜
(酒井景二朗)ソムリエを頼むことなどなき日々も芋燒酎を煮ればうれしも
(お気楽堂) 舌を噛みそうな名前もよどみなくグラスを満たしソムリエが去る
(紫月雲)サロンなどどうでもよくてソムリエの指の角度に見惚れておれり
057:縁(101〜126)
健太郎) 縁深くゆかりの町の簡易宿縁側で待つ芸者の帰り
(都季) 離れても縁があるならまた会える 麦わら帽子はもう探さない
(橘 みちよ)縁側の手すりに夏の日射しあり座敷の柱時計が鳴りき
058:魔法(101〜125)
(櫻井ひなた)魔法使いみたいに呪文を唱えてもかぼちゃはかぼちゃあたしはひとり
(都季) はぜながら夏の魔法は解けてゆく 線香花火がぽたりと落ちて
(橘 みちよ) 魔法瓶のそこの鏡面映るわが顔に熱湯いつきにそそぐ
059:済(101〜125)
(櫻井ひなた)モノクロな今日に『済』印押すようにカラフルすぎるチューハイを飲む
(橘 みちよ)あなたにはもう済んだこと置き去りのわたしそこから抜け出せぬまま 
(花夢)使用済ナプキンひとつ捨てながらおんなをもてあますこともある
068:秋刀魚(76〜100)
(五十嵐きよみ) 骨だけをきれいに残せた日に限りサンマを「秋刀魚」に昇格させる
(イマイ)新鮮な秋刀魚がならぶスーパーでおいてけぼりをくらった九月
(虫武一俊)手始めに秋刀魚の背骨を取るように空白期間のことを訊かれる
(ほたる)日の暮れは茜の空とヒグラシと秋刀魚の焼けるにおいが合図
(帯一鐘信)テーブルを挟み無言の冷戦に秋刀魚のワタはかくまで苦し