題詠100首選歌集(その61)

 朝夕はすっかり秋めいて来た。窓を開けて虫の声を聞いていると、ちょうど快適な気温だ。そろそろ夏掛けを毛布に変えないと、風邪を引いてしまうかも知れない。


             選歌集・その61

010:街(262〜288)
(はせがわゆづ) 街灯の揺らめきに見るまぼろしはいつかのあなたの背に似ている
(月原真幸)なまぬるい春風だからポケットに手を突っ込んで行く街はずれ
(やや) この街は楽しくて綺麗で優しくて空が青くてあなたがいない
(春畑 茜)それからの時間は過ぎて市街地に小幡城址の石がちひさし
033:冠(178〜203)
(桑原憂太郎) 目に見えぬ冠のあり教室にスクールカースト歴然とあり
(宮田ふゆこ)親友のジョディにあげたヒナゲシの冠などの思い出の嘘
051:言い訳(127〜151)
(暮夜 宴)言い訳をすればとうもろこしの穂はまたひとときを風にざわめく
(花夢) そのうちに月へ帰るからっていう言い訳をして嫁に行かない
(桑原憂太郎)教頭に生徒指導の案件を報告するうち言い訳となる
(斗南まこと) 言い訳をされるつもりで待っていたわたしの肩に今、雨が降る
052:縄(127〜152)
(花夢)これまでに摘み取ってきた愛情を縄で縛って軒下に干す
(桑原憂太郎) 月曜の朝に起こつた案件の縄を編むうち金曜になる
(斗南まこと) 縄編みが面倒くさくて投げ出したセーターだけが残されて、春
054:首(127〜151)
(ワンコ山田) 足首の白さを保つスカートの長さ踏まれる恐れと共に
(一夜)百首まで折り返したとひとごこち 秋の薫りし時がそこまで
056:アドレス(126〜150)
(暮夜 宴)受信した君のアドレス抱きしめて、ほんとは受胎したかった夏
(本田鈴雨) 唐突にひとりつきりとなりし友のアドレスに亡き夫の名はあり
061:ピンク(104〜129)
(振戸りく)何もしないことを選んだ日に飲んだピンクグレープフルーツジュース
(暮夜 宴)薄ピンク色の日暮れをもぎとれば日向ぼっこのトマトの匂い
(斗南まこと)ペティキュアをピンクに決めて新しいサンダルは白 夏はもうすぐ
(美木)しのび足するとき頭に流れてるテーマはいつもピンクパンサー
063:ゆらり(102〜129)
(ほたる)立ち位置がゆらり崩れてしまうからパズルは未完成のままでいい
(都季)熱帯夜の輪郭ゆらり溶け出して夢との境が曖昧になる
(酒井景二朗) 水底のゆらりゆらりの風景に會へた今年の夏を納める
(音波) 君だから正座のように変えられたゆらりと生きるはずの三十路を
(橘 みちよ)不意の揺れに急ぎおさへし本棚の上(へ)の地球儀がゆらり傾く
087:気分(51〜75)
(七十路ばば独り言)煙るよな雨降り続く一日は病んでる気分の私の手足
(萱野芙蓉)気分屋の少女のままでゐたいんだハーパスバザーをソファーに放る
089:テスト(51〜75)
(さかいたつろう)居残りで受けたテストを思い出す 離婚届に名前を書き込む
(nnote)何となくものがたりなど書いてみるテストの裏に落ちる初秋
(原田 町)聴力をテストされおり耳奥にみんみん蝉の鳴きやまざれば