題詠100首選歌集(その63)

珍しい秋の5連休も、なすこともなく過した。休日が続いた割には、この短歌の投稿も思ったほど伸びない。今日は、秋晴れの上天気。ちょっと出掛けたら、すっかり汗をかいてしまった。

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して5年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。



       選歌集・その63


003:助(314〜338)
(木下一) 助走なしで飛んだ青空痛いほどあの日の僕の「好き」に似ていた
(稚春) 補助席のどっちつかずの感覚がかれこれ六年続いています
(近藤かすみ) どうしても助けられない人のゐる夢を見ていた夏の夜のこと
024:天ぷら(203〜227)
(斗南まこと)「これから」を口に出来ない僕たちは天ぷら蕎麦を黙ってすする
025:氷(201〜225)
(月原真幸)とりあえず氷いちごを食べ終えるまでは絶望するのを止める
(近藤かすみ)ノコギリで切りたる氷の塊を鉤もて運ぶ昭和の男
(文月育葉)赤裸々に告白されて手つかずの氷イチゴが夏に染み出す
043:係(154〜178)
(やすまる) 校庭の空にうずらを解き放つ飼育係のにちようの朝
064:宮(101〜125)
(月下燕) 泣く君を部屋ごと包むワンルーム子宮の中の双子に戻る
(橘 みちよ)み社の鳥居に木々に斎宮の記憶やどるか木霊は棲むか  
(はづき生)血脈のマグマは満ちて燃え上がる 今、太陽は獅子宮に入る
(emi)一日を子宮の底で考えるそんな日ばかりだった青春
065:選挙(101〜125)
(橘 みちよ) 女らがやうやくに得し選挙権を十八歳に与へむと言ふ
(松原なぎ)選挙カーうち捨てられた浜辺にもエーテル美しいレヴェランス
066:角(101〜130)
(都季)角が立つくらいに固く泡立てた生クリームに葬る痛み
(本田鈴雨) あの角を南と北にわかれませう ユリノキごしに残照おいて
(花夢)すこしだけ角ばっている字のクセも相変わらずで生きていますか
(emi)あの人が最後に見せた白い歯を忘れられずに戻る四つ角
067:フルート(101〜126)
(都季) さっきまでフルート吹いてたその口で君は鉛の言葉を吐き出す
(橘 みちよ)フルートの音色ひびかふ『牧神の午後』当直あけのまどろみのなか
074:肩(77〜101)
(五十嵐きよみ)天使への昇級試験を待つような肩甲骨が浜辺にならぶ
088:編(52〜76)
(七十路ばば独り言)編み棒と毛糸の玉が押入で「忘れないで」とつぶやいている
(髭彦) 眼裏(まなうら)の瞳つぶらな三つ編みの転校少女おぼろなりけり
(春待)編みかけのセーターばかり十着も抱えて今年も春を迎える